インファナル・アフェアV―終局無間
監督:アンドリュー・ラウ / アラン・マック
そして、香港警察物「インファナル・アフェア」の第三作で、シリーズ完結版である。三作とも同じ時期に続けて制作されたようであるが、こちらの公開は2005年である。監督は、前二作と同様、アンドリュー・ラウとアラン・マック。
今回の映画も、現在と過去が入り乱れるので、非常に分かり難い。2002年5月、第一作で殉職したヤン(トニー・レオン)による、殉職半年前の小さな騒ぎから映画が始まり、そのまま殉職半年後の2003年10月に跳ぶ。そこでは第一作の主要人物で唯一生き残ったラウ(アンディ・ラウ)が、署内の調査委員会でヤンらの射殺につき査問されるが、「正当防衛」を認められている(ただ第一作の最後でラウの正体を知った妻マリーからは離婚を要求されている)。それを受け、ラウは、警察内で一旦庶務課に左遷させられるが、すぐに内務調査課に戻った彼は、そこで更なる「もぐら」探しに取り掛かる。第一作の最後で、ヤンと共に射殺したサムの「もぐら」である警察官が、署内には5人の同様の「もぐら」がいる、といった言葉が脳裏に残っているのである。そしてラウは、エリート警官であるヨン警部(レオン・ライ)の面前で、保安部のある巡査が、「何故、同じ仲間だろう」という言葉を残して拳銃自殺した現場に偶然居合わせたことから、ヨンに対する疑惑を抱き、密かに調査を始める。そして、そのラウとヨンの駆け引きが大団円へと繋がっていくのである。本作のメインの話はそれだけなのであるが、その中に過去の出来事や回想が頻繁に挿入される。
再び、第一作で死んだ、ウォン警部(アンソニー・ウォン)とマフィアのサム(エリック・ツァン)が登場する。そこではサムが、中国本土のマフィアであるチェンと武器密輸の工作を行っており、ヤンがその実行を指示されている。他方、ウォンはヤンと接触し、その情報を得ているが、その密輸現場に突入する捜査が、ヨンにより阻止されている。また第一作で、ヤンの精神科医として登場したリー医師(ケリー・チャン)が、本作では結構多く登場し、ラウとの想い出を回想すると共に、現在のラウともそれを共用する。ある場面では、リーとヤンとラウの3人が会話をしているが、これはラウの意識の中を想定した設定なのだろう。
今回新たに登場する主要人物は、上記のエリート警官ヨンと、本土マフィアの大物チェンである。ヨンは、ヤンが、サムの組織潜入のため警察学校を退校させられたため首席で卒業することができた、と回想している。またチェンは、最後に、実は本土のマフィアに、ヨンが送り込んだ潜入員であることが明らかになる。こうして彼らの記憶の中での過去と現在が入り乱れながら、映画が進み、そして最後のラウとヨンの対決で、ヨンは死に、他方ラウは自決に失敗し、障害者として生き残ることになる。冒頭から彼との離婚訴訟を進めているマリー(サミー・チェン)が、車椅子に乗る彼のもとを訪れる。そこで、ラウは、第二作で殺されたサムの妻マリーに射殺される幻想を見ることになる。
こうして黒社会への潜入工作員たちと、黒社会から警察に送り込まれた「もぐら」であるが、「善良に生きたい」と考えた男の物語三部作が終わる。確かに全部見終わると、なかなか計算された緻密な作品であることは理解できるが、構成がやや複雑すぎて、シンプルに楽しみことはできないのは、この第三作も同様であった。こうしたアクション物は、やはりエンターテイメント的要素が必要で、そのためにはもう少し単純な作りで良かったのではないかな、という残尿感が残ることになった。次はもう少し「分かり易い」同種の映画を探してみようと思う。
鑑賞日:2022年1月28日