コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義
監督:リョン・ロクマン / サニー・リク
「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義」の続編で、2016年の制作。監督は同じリョン・ロクマン、サニー・リクのコンビで、前作で登場したアーロン・クオックと、レオン・カーフェイという二人の俳優が引続き主役を演じている。
前作の最後に挿入されていた、香港警察長官となったラウ(アーロン・クオック)の下に入る電話。家族への危害を予告して、前作で負傷し逮捕されたリー副長官の息子ジョーを解放しろという強迫である。至急家族保護に向かうが、時既に遅く妻が誘拐され、ジョーの解放にはラウが一人で来いとの指示が入る。周囲の反対を押し切ってジョーと共に犯人の指示に従い動くラウ。車中でジョーは、「50百万を渡せば、警察の行動計画書をくれるという話はどうなったのか?」と呟いているが、ラウは無視している。しかし彼らが用意した爆弾を運ばざるを得なかったことで、混雑する地下鉄の駅で爆弾騒ぎの混乱の中ジョーを取り逃がし、爆弾も破裂して多くの怪我人を出すことになる。妻は解放されたが、再びラウ指揮の香港警察による失態ということで、ラウに対する圧力が強まる。その一連の過程を、父親のリーも、警察で見守っていた。
今回の事件も、警察内のラウ反対派が引き起こしたもので、その黒幕は元警察長官のチョイで、彼は財務長官や行政長官候補者といった香港政界の大物の支持も得ている。そしてその手先として使われる解放されたジョーを、父リーの元に送り、多くの有力者を使い、リーの長官復帰を企んでいると告げる。最初は躊躇していたリーであるが、チョイに呼び出され、大物政治家と共にラウの排除を提案されたリーは、親子の愛情もあり、次第に復権の野望を膨らませていくことになる。
ラウを尋問する諮問委員会が、弁護士で国会議員のカンが議長となり開始される。第一回聴聞の対象はリー。彼はそこで、ラウと共に動いた際の車の中で、ジョーが「警察車両等の在りかは、ラウが約束を守らないから分からないままだ」と呟いたこと、そして警察の行動計画書を50百万で渡すという提案に、ラウが欲をかいて値段を吊り上げようとしていた、と証言している。カンは、まずはラウに疑念を持っているが、その助手である若い女弁護士オウ(彼女の名前はネットにも出ていないが、なかなか可愛い女優である)に、リーの行動を監視させている。
第二回聴聞はラウに対して行われる。ラウは、「非常時には、非常手段で対応する必要がある」と抵抗している。聴聞後、オウは、リーを監視しているが、彼が車で出かけ、停車後数十分行方知らずになった後、再びそこに戻り、車に乗る前にジョーと別れの抱擁をしている現場を写真に収めている。そして香港外への逃亡を企てたジョーを追跡したオウは、トンネル内でジョーの部下に、自動車事故を装って殺される。その救助に駆け付けたラウらと犯人たちの銃撃戦が勃発し、ジョーも射殺される。その知らせを聞いたリーは、「ジョーの命だけは守ってくれる」という約束を破ったとしてラウを非難。こうして、リーは有力者たちの陰謀に乗り長官としての復権を目指すことで、一旦は和解した両者の対立が顕在化することになる。
トンネル内の銃撃を含め、ラウへの信認が揺らぎ、彼の辞任に向けた動きが進む。彼の元恋人で、彼に忠実な警察の広報担当フェニックスも、ラウ辞任の書類への署名を求められている。ラウに相談したフェニックスに、ラウは署名するよう指示している。
カンは、死んだオウのカメラからクラウドに移され保管されていたリーとジョーの抱擁の写真に、車から顔を出したチョイが映っていることを知り、立法会が政治家に利用させられていることを確信、その写真をラウに届けている。一方、辞任が決まったラウは、「残された4時間は自分が警察トップだ」として、失われた警備車両の捜査の指揮官にリーを任命。彼の指揮で、ドローンも使用しながら、警備車両が隠されていると思われる廃車置き場に特殊部隊と共に乗り込むが、犯人の仕掛けた爆弾で特殊部隊は全滅。しかし、リーが対峙した人質を盾にコンビニに立てこもった最後の一人を含め、取り合えず犯人は、全員射殺される。彼らは全てリーのかつての部下で、1995年のある事件で、リーの身代わりとなり死んだことになっている元警察官であった。こうしてラウ排除の陰謀が潰え去り、首謀者のチョイ元警察長官は、海外逃亡に向かう。空港のVIP室にいるチョイに、ラウが乗り込み、彼が支配していた通信会社を放棄し、二度と香港に足を踏み入れないよう通告するのである
事件解決を受け、ラウは記者会見で、「国際金融都市として法治主義は重要な基盤である。すべての決断は政治には左右されない。」と宣言、「アジアで最も安全な都市香港」というルビと共に映画は終わるが、最後に重傷で入院している犯人の元部下を見舞うリーが映される。これはまた続編を示唆しているのだろうか。しかし、現時点ではこの続編は聞こえてこない。それが制作されていないのは、香港の民主化の圧殺と関係するのかは不明である。
今回の続編も、若い改革派のラウが、古参の現場叩き上げのリーや、彼を支援する有力政治家たちの圧力を跳ね返し、長官の座を維持するという結末になるが、前作同様、公的な組織内の抗争が、爆発事件や激しい銃撃戦を含む大きな喧騒を起こす、というのはたいへん違和感がある。そして上記の「国際金融都市として法治主義は重要な基盤である。すべての決断は政治には左右されない。」という言葉も、今や本土の政治力で「法治主義」が、本土の意向に従ったそれに変えられた今となってはたいへん虚しく響く。今後続編の第三作が出てくるかどうかは分からないが、出てきたとしても、そこで語られる香港の姿は本土の意向に沿ったものになることは間違いないだろう。その意味で、前作同様、この作品も香港映画の「墓標碑」となるのだろう。
鑑賞日:2022年7月16日