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モガディシュ 脱出までの14日間
監督:リュ・スンワン 
 「トップガン」以来の久し振りの劇場での鑑賞となった。2021年制作・公開の韓国映画であるが、その国際的センスは、最近の日本映画には見られないもので、これを推薦してくれた友人に言わせると「あなどれない韓国映画」ということである。

 昨年(2021年)12月に、「ベルリン・ファイル」というベルリンを舞台にしたスパイ物を観て、結構面白かったが、それと同じリュ・スンワンが監督している。映画の舞台は、韓国民主化から3年、ソウル五輪からわずか2年後の1990年のソマリア。そこでの内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たちによる脱出という実話を映画化したものである。ネット情報によると、第42回青龍映画祭(私は知らなかったが、韓国最大の映画祭とのこと)で作品賞、監督賞ほか5部門を受賞し、韓国で大ヒットを記録したとのこと。

 ソウル五輪を成功させた韓国は1990年、国連への加盟を目指して多数の投票権を持つアフリカ諸国でロビー活動を展開している。ソマリアの首都モガディシュに駐在する韓国大使ハン(キム・ユンスク)も、ソマリア政府上層部の支持を取り付けようと奔走している。一方、韓国に先んじてアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮も同じくリム大使(ホ・ジュノ)率いるチームが国連加盟を目指しており、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていく。北朝鮮側は、現地武装勢力を抱き込み、ハン大使の大統領とのアポを妨害、韓国側は、西欧メディアを通じて、北側が武装勢力に武器を流しているという噂を流したりしている。こうした活動は、夫々の情報担当将校、韓国側は、カン参事官(チョ・インソン)、北側はテ参事官(ク・ギョファン)という若い二枚目の二人が仕組んでおり、その後危機が深まるにつれ、この大使二人と参事官二人の絡み合いが、展開を引っ張っていくことになる。

 そんな中、ソマリアで内戦が勃発。12月に入り、バーリ大統領の退陣を求める反乱軍の動きが勢いを増し、各国の大使館も略奪や焼き討ちに会う。韓国側は、カンが政府軍の一部に賄賂を払い、大使館を武装で固めるが、北朝鮮側は大使館を脱出せざるを得なくなり、期待していた中国大使館の保護も受けられなかったことから、職員と家族たちを連れ、絶対に相容れない韓国大使館へ助けを求めることを決める。韓国側の大使館関係者は、男3人と大使や書記官夫人そして通訳秘書といった小世帯であるが、北朝鮮側は、小さな子供(一人はリム大使のことを「お爺さん」と呼んでいたので孫まで滞在していたようである)を含めた10人以上の大世帯である。彼らが戦乱の街を彷徨いながらようやくたどり着いた韓国大使館であったが、韓国側はカンが追い返せと主張したのに対し、ハン大使が受け入れる決断を行う。また受入れ後も、カンが、北朝鮮側のパスポート情報を使い、北朝鮮の大使館員が亡命を求めているという書類を密かに偽造。それを目にしたテと乱闘になったりしている。しかし、カンが雇った政府軍武装部隊が、「保護するメンバーが増えたので金を積め」と主張。それに対処できなかったことから韓国大使館の武装もなくなったことから、韓国・北朝鮮双方が協力して脱出の方法を見つけるしかなくなってしまう。双方とも、本国との交信手段も亡くなっている状況下で出てきたのは、韓国がイタリア大使館に、北朝鮮がエジプト大使館に助けを求めるというアイデア。結局エジプト大使館は助ける余力はなく、イタリア大使館に頼ることになるが、彼らは、国交のある韓国は兎も角、北朝鮮関係者は専用機には乗せられないという。それに対し、ハンは、カンが偽造書類を制作していたことを思い出し、北朝鮮メンバーは韓国に亡命した、ということにしてイタリア側の承諾を得ることになる。約束の時間までにイタリア大使館に全員揃わなければならないということで、本や板を全体に張り付け防御を固めた四台の車に便乗し出発するが、武装勢力の検問近くで、一台が白旗を挙げようとした際に、白旗が外れ、棒だけが車外に出たことで、銃だと誤解され、武装勢力の銃撃に晒されることになる。必死の逃亡を経て何とかイタリア大使館に辿り着くが、その時テ参事官だけが、この銃撃の犠牲となるのである。

 最終的に、1991年1月、西欧人避難者に交じり、特別機でケニアはモンバサに到着する一行。そこで、北朝鮮関係者も拘束しようと待ち構えていた韓国側の大使館関係者に対し、ハン大使は、自らの救済を感謝しながら、リム大使らの一行を、他の外国人の集団に紛れさせて、韓国側の拘束から守ることで、映画が終わることになる。もちろん、最終的に北側に移送されたリム大使ら北朝鮮関係者のその後の処遇についての懸念は払拭できないということはあるが・・。

 「ベルリン・ファイル」でも感じたが、第三国を舞台にした作品での実写を思わせる映像が素晴らしい。モガディシュの街は、監督のインタビューによると、別の街で撮影されたということであるが、ほとんど実際の街と遜色ない。そしてそこで繰り広げられる反政府デモ隊と当局警備隊の衝突から始まり、反政府武装勢力による勢力拡大と荒廃していく街の様子、そして現地黒人兵士たちの様子など、ほとんどリアル且つ迫力満点に表現している(デモ隊と政府軍との衝突は、韓国映画のお得意のところであろうが、ここではそれが韓国人ではなく現地人の闘いであることが決定的に異なる)。そしてその中で繰り広げられる南北朝鮮の大使館員の軋轢と協力。例えば、日本映画であれば、時代劇の戦闘シーン等は、迫力ある映像を撮ることはできるが、自国を離れたアフリカという僻地での戦闘をこれだけの規模で表現した日本映画というのは観たことも聞いたこともない。そしてその状況下での、敵対する南北朝鮮の大使館関係者の絡み合いもスリリングである。「ベルリン・ファイル」でも、この南北関係は一筋縄ではないように描かれていたが、この作品でもそれは同様である。

 ネットによると、ハン大使を演じたキム・ユンソクは、私も以前に観た「1987、ある闘いの真実」(別掲)でも主役を演じているという。またリム大使役のホ・ジュノは、「国家が破産する日」という作品の主役の一人であるとのこと。後者は私はまだ観ていないので、機会があれば観ておきたい。:


 「あなどれない韓国映画」どころか、「韓国映画恐るべし」と感じた作品であった。

鑑賞日2022年8月3日