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白頭山(ペクトゥサン)大噴火
監督:イ・ヘジョン / キム・ビョンソ 
 次に観たいと思っていたドイツ映画の在庫がなく、取寄せとなったことから、その間の繋ぎとして、適当に選んだ韓国映画であったが、予想に反して面白かった。昨年(2021年)8月劇場公開の作品で、監督はイ・ヘジョンとキム・ビョンソと初めて聞く名前。主役の二人を、イ・ビョンホンとハ・ジョンウという、こちらは別の作品で観たことのある人気俳優が演じている。タイトルからすると、火山噴火によるパニック映画の様に思われるが、実際は、この火山噴火の被害を抑える作戦の過程で、大統領府や韓国軍と、北朝鮮のスパイや警備兵、そして米軍が入れ乱れる、思いがけない展開で進むことになる。

 まずは、北朝鮮の核廃棄が最終段階に入り、そのICBM輸送のために米軍輸送船が北朝鮮のチョンジン港に入港する、というルビが流れる。そして主人公の一人であるチョ大尉(ハ・ジョンウ)が、不発弾処理作業を行っている場面から映画が始まる。チョは、軍属の最終時期にあり、ソウルにいる妻チェ(ペ・スジ)は妊娠し臨月に近づいている。テレビでは、北朝鮮の非核化が近く完了することが報じられている。

 そこで、大きな地震が朝鮮半島を襲う。ソウルでもビルが倒壊し、北朝鮮との通信も途絶えることになる。地震は、北朝鮮の中国国境に近い白頭山(韓国民族発祥の地という伝説があり、南北交流のための観光開放で話題になった山であるが、その後の両国の緊張でその計画が途絶えたことは、私も記憶している)の噴火に伴うもので、韓国大統領府は、その噴火を予測・研究していた韓国系アメリカ人の(ロバート)カン・ポンネ(マ・ドンソク)に助言を求める。カンはこれから予想されるあと3回の噴火、特に3つ目の噴火が決定的な被害をもたらすこと、そしてそれを弱めるためには、相応の場所で核爆発を起こし、その圧力を弱める必要があるとする。当然韓国は核を持たない。そのためには起爆装置は韓国製を使うが、そこに装着する核は北朝鮮のものを使う外はない。それを受け大統領府の主席補佐官チョン・ユギョン(チョン・ヘジン)は、爆発物処理のベテラン、チェ大尉に白羽の矢を立て、地震で混乱する北朝鮮に内密に入り、その計画を遂行するよう命令する。その際、チョンは、北朝鮮の核は配置等の情報は、北朝鮮にいるスパイであるリ・ジュンピョン(イ・ビョウンホン)が持っているので、彼を探し、彼に案内させるよう指示するのである。チェは、妻には任務を告げず、直ぐに最後の仕事を終えて、戻ると言い残して任務に就く。

 こうして地震の混乱の中チョは、輸送機のトラブルもあり、パラシュートで降下し北朝鮮地域に入る。本部からは、噴火の影響で支援部隊は送れない、との連絡が入り、チョの部隊はそれから単独で動くことになる。そしてまずはスパイ行為が発覚し、北朝鮮の監獄に留置されているリ・ジュンピョンを、万一のために彼の体内に入れたGPS情報から探し出し、彼を解放し、任務に協力するよう求めることになる。

 以降は、チョとリの、当初は相互の不振に満ちた駆け引きが繰り広げられる。リは、起爆装置を仕掛ける場所としてチョが持っていた炭鉱地図を呑み込み「保険だ。地図は俺の頭にある」と嘯く。またリは、ハムンという街に向かわせ、そこでチョから逃亡するが、それは彼の自宅がある街で、家には地震の直撃を受けて瀕死の妻がいる。「俺を密告したのはお前か」と問い詰めながら、そこにいなかった一人娘スノクの居場所を確認する。リが妻に放った銃声を聞き駆け付けるチョ。そして再びリは、チョに協力し、北朝鮮の核施設に潜入し、警備隊と交戦しながら、リの狡知に助けられながら核弾頭を入手する。そしてそれを爆発させる炭鉱に向かう途中、リの娘スノクのいる廃墟となった街を訪れる。しかし同じ頃、チョの妻は陣痛に襲われ、地震で混乱する病院に担ぎ込まれている。また同時に、この韓国大統領府の計画情報を受けた米軍から、作戦を中止するよう圧力がかかっている。そしてその指示を受けた部隊がスノクと会っているリとチョを急襲する。激しい銃撃戦と、その後の車での追撃が行われるが、新たな地震のため、リとチョはそれをかわし、二人だけとなって、既にタイマーが作動し止められなくなった起爆装置がついた核を設置する炭鉱に到着。リの案内で、その坑内に入るが、そこで新たな地震が襲い、設置場所には行きつけない。そこで、最後は、リが、「(米軍の銃弾を受けた)俺は長くない。ただスノクの世話だけを頼む」と言い残し、一人で炭鉱の奥深くにリフトで沈んでいくのである。チョはそこから脱出。核は破裂し、白頭山の4回目の決定的な噴火でもたらされる地震は吸収され、朝鮮半島は救われるのである。

 そして1年後、テレビでは南北朝鮮の統一交渉が進んでいるとの報道が映されている。空港では一旦米国に帰ったカンが戻り、チョン首席補佐官の出迎えを受け、そしてチョの自宅では、新たに生まれた男の子の赤ん坊にスノクを加えた4人の家族が、楽しい夕食の時間を過ごしているのである。

 地震で壊滅的打撃を受けた北朝鮮に潜入し、その核を奪い災害防止に使う、という突拍子のない発想での映画であり、よくこうした話を思いついたなと、正直感心させられる。南北の対立関係に加え、作戦の過程で米軍まで登場させるというのもなかなかの構想力である。そして、そうした大情況に、二人の主人公の家族関係を重ねながら、二人が当初は疑心暗鬼に満たされながらも、次第に心を通わせ、最後はリが自己犠牲を捧げ、その残された娘をチョが引き取るというエンディングも、予想できるとは言え、微笑ましい。映像技術は、現代はこの程度のものは簡単にできるのだろうが、それでも噴火で破壊された廃墟の街や、そこでの戦闘やカーアクションの映像なども、なかなかリアルであった。期待していなかった分、楽しめた作品であった。

鑑賞日:2022年9月13日