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アジア映画
幼い依頼人
監督:チャン・ギュソン 
 年内は韓国映画は打ち止め、と考えていたが、偶々友人から薦められた作品が出てきたことから、またもう一本観ることになった。韓国で2013年に起こった児童虐待に関わる実話を基にした作品ということで、2019年の制作。監督はチャン・ギュソン。主演の弁護士をイ・ドンフィ、悪役となる継母をユソンといった俳優が演じているが、何よりも熱演しているのは10歳の姉を演じた子役のチェ・ヨンビンである。イ・ドンフィは、以前に観た「エクストリーム・ジョブ」で、うだつの上がらない麻薬捜査班の一員でも登場していたということであり、確かにその時の私の評でも名前は挙げられているが、余り印象は残っていない。

 弁護士の卵であるユン・ジョンヨブ(イ・ドンフィ)は、職が決まらず、姉の家に居候しているが、そこで一時的に就いた児童福祉事務所で、10歳と7歳の姉弟と知り合うことになる。姉はダビン、弟はミンジュンというこの姉弟は、母親を早く亡くしているが、父親が再婚した継母であるジスク(ユソン)から、箸の使い方といった些細なことで虐めを受け、それを訴えるために福祉事務所を訪れていたのである。ジョンヨブは、二人と親しくなり、動物園を一緒に訪れたりしているが、継母の虐めについては、ほとんど関与することができない。そうこうしている内に、ジョンヨブは、ソウルの法律事務所への就職が決まり、二人を残して去ることになる。しかしその後、継母の虐待が激しくなり、そしてついには、ジョンヨブが、ハンバーガー代としてミンジュンに渡した現金が原因となり、彼が継母の暴力を受けた結果死亡、その犯人として、本人の自供に基ずき姉のダビンが逮捕されることになる。以降、その結果に疑問を抱いたジョンヨブが、弁護士事務所を退職して真相解明を進めていく姿を通じて、親による児童虐待がなかなか刑事事件として取り上げられない実態を描いていくことになるのである。

 児童虐待そのものは、日本でも同様であろうが、民事不介入で、警察がなかなか真剣に取り上げないことや、また子供の死亡に至っても、家庭内の事例ではその因果関係を実証するのが難しいことから、刑事事件となっても傷害致死といった軽い刑になることが多いのが実態であろう。ただこのケースでは、当初は10歳の姉が殺人犯として逮捕されたことが、世間の関心を呼び、それが市民運動に繋がり、それなりに実証されたということだったのだろう。小道具として使われた、熊の縫ぐるみが録画機能を持っていた、というのが事実であったのかは分からないが、親の犯罪の立証のためにはそうした「証拠」が必要であったという展開になっている。

 こうした流れの中で、念願の弁護士事務所に就職が決まり、「生まれによる差別には関心がない」という所長の言葉を一回は受け入れながらも、結局こうした「意味のない」行動に向かっていくジョンヨブの変容を淡々と演じたイ・ドンフィ、あるいは悪役の継母を、これもかこれでもかと演じたユソン、そして何よりも、仲の良い弟を失いながらも、継母の命令に従わざるを得ず困惑する10歳の姉を演じた子役の演技力は凄まじかった。ただ映画としては、私自身が、児童虐待という課題に余り関心を抱けないことや、その展開が予想できる、やや形式的な話にやや退屈することになった。もちろん映画最後のルビに示される通り、児童虐待は、韓国のみならず、日本や世界で共通する課題となっていることは間違いなく、その原因を抉った監督の意図は理解できるものなのではあるが・・・。

鑑賞日:2022年12月24日