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バーフバリ 伝説誕生
監督:S.S.ラージャマウリ 
 先週末の公営コートでのテニスの際に、コート横のベンチで待機をしていた2人組のインド人青年と雑談をしていたところ、偶々インド映画の話になった。私が、大昔に観た「サラーム・ボンベイ」や、その後観た「スラムドック・ミリオネーラ」は面白かったと言うと、彼が「最近のRRRという映画は面白いが観たか?」と返してきた。これは初めて耳にする映画であったことから、帰宅後ネットで調べたところ、まだ劇場公開中であった。3時間を超えるこうした映画を劇場で観るのは、退屈するリスクもあるのでどうしようかと考えていたところ、この作品の監督であるS.S.ラージャマウリが、以前に制作し、既にレンタルが開始されている「バーフバリ」というタイトルがついた2作があることが分かり、その最初の作品である本作をまず観ることになった。因みに、この話をしたインド人青年二人は、当方が一面を7人でちんたらとプレイしたのに対し、二人だけで、強いサーブと激しいラリーのシングルスを2時間続けていた。この映画の主人公ではないが、彼ら二人がかなりのマッチョであったことは間違いない。

 ということで、2015年公開の本作であるが、当時のインド映画としては最高額の予算が付けられ、公開直後からインドの歴代興行収入最高額を更新したということである。確かに、幻想的な自然や王国の都の風景、そして激しい戦闘シーンとそこでの主人公の動きなど、壮大なセットと特撮の連続にたいへんな金をかけたことはよく分かるが、話としてはとりとめがなく、続編の「バーフバリ 王の凱旋」を観るかどうか悩ましい作品であった。

 冒頭、赤ん坊を抱いた女が、追撃者に追われ川に転落、自分は沈みながら赤ん坊を持ち上げ、川岸にいた村人に赤ん坊が救出される。その集落は壮大な滝壺にあり、赤ん坊はそこで子供のいない女に引き取られシヴドゥと名付けられ青年に成長、そして滝の岸壁を登っては落ちるを繰り返し、女や村人には呆れられている。ある時は、母親が祈りを捧げるために河から1000回水を運ばなければならない様子を見て、そのシバ神の石像を持ち上げ滝壺まで運び、「これれで、水を運ばなくても祈りが通じる」と嘯くなど、マッチョ振りを誇示している。

 そのシヴドゥが、ある日、滝に流されてきた仮面に魅せられ、滝の上にある世界に思いを馳せる。そして改めて崖を登っていくと、そこで幻想的な美女が現れ、彼を滝の上の世界に導くことになり、そこで仮面の持ち主で、戦士でもあるアバンティカという女性と巡り合う。アバンティカは、不審なシヴドゥを攻撃するが、彼はそれを逃れながら彼女の後を追う。アバンティカは、クンタラ王国の住民であるが、その国の王妃デーヴァセーナは、暴君が支配するマヒシュマティ王国に捕らえられ、25年に渡り幽閉されているが、彼女は、その王妃を奪還する作戦の戦士であった。しかし、彼女が河岸で寝ている時に、シヴドゥが手に恋文のような入れ墨を入れたことで、部隊長から叱責されている。その汚名を晴らすため、彼女はシヴドゥを探し襲うが、二人の闘いの中でアバンティカはシヴドゥからの愛を受け止めることになる。そしてシヴドゥは、幽閉されている王妃を救うべく、単身マヒシュマティ王国に潜入するのである。

 その王国では、国王バラーラデーヴァの誕生日を祝う祝典が準備され、巨大な黄金像を奴隷たちが立ち上げる作業を行っている。それが崩れ、多くの奴隷が下敷きになる直前に、奴隷に紛れ込んでいたシヴドゥが怪力で阻止するが、その姿を見た奴隷たちが「バーフバリ」と叫び、それを聞いた王妃デーヴァセーナは、「ついに息子が自分を救いに来た」と叫ぶのである。こうしてシヴドゥとバラーラデーヴァの軍勢との戦いが、暗闇の中で繰り広げられるが、アバンティカの軍勢も参戦し、シヴドゥは生き残る。そして敵の老兵士を捕らえ殺そうとした時に、その老兵士がシヴドウを見て、「バーフバリ」と驚き、彼は、シヴドゥはマヒシュマティの王子であったということを語るのである。

 そして物語は50年前に遡る。その頃のマヒシュマティ王国では国王が急死し、後継者を巡る権力抗争が始まっていた。王国には二人の王子、バーフバリとバラーラデーヴァがいて、二人とも文武両道の王族として育てられていたが、その頃軍事機密が近隣の野蛮国カーラケーヤに渡り、その国がマヒシュマティを大きく上回る軍勢で攻め寄せる危険が迫っていた。二人の内、その戦争で敵将の首を取った方が王位を次ぐことになり、カーラケーヤとの激しい戦闘が始まる。ここではバーフバリはシヴドゥと同じ俳優が演じている。そして結果的には、敵将の首を取ったのはバラーラデーヴァであったが、人質を守りながら戦ったバーフバリが指導者としては優れているということで、バーフバリが国王となった。そしてシヴドゥは、実はそのバーフバリの子供であったのである。

 そして話は戻り、その話をした老兵士に、シヴドゥが「父であるバーフバリに会いたい」言うと、彼は「バーフバリは仲間に裏切られて死んだ」と答える。そして老兵士が、「その裏切り者は自分だ」とシヴドゥに告げるところで、この映画が終わるのである。

 インド古代を舞台にした壮大なドラマである。前述のとおり、美女に導かれて滝の岩場を登るシヴドゥの様子などは幻想的且つアクロバティックであり、またマヒシュマティ王国の町や多くの戦闘シーン(特に野蛮国カーラケーヤの首領や多くの兵士が、とんでもない「野蛮人」の容貌をしているのにも笑ってしまう)も、どれだけ金をかけたのだろうか、と思わせるほど見事である。

 しかし、やはりインド映画とでも言うのだろうか、美女に誘われたり、アバンティカとの愛が進む過程で挿入される歌は、全体の流れを考えるとやや滑稽である。また、シヴドゥとバラーラデーヴァの軍勢との戦いは意識的に暗闇の中で続くが、観る方は、いったい何が起こっているか分からない。そして最後の野蛮国カーラケーヤとの延々と続く闘いでは、第一回目の鑑賞であったにも関わらず、思わず早回しで飛ばしてしまったのであった。国際的な映画祭でもそれなりに評価された作品ということではあるが、個人的にはやや冗長な作品であるという思いは否めなかった。そんなこともあり、繰り返しになるが、この続編を観るかどうかは、やや悩ましいところである。

 主演のシヴドゥを始め、男はとんでもないマッチョ達、女は如何にもインド的な美女が登場するが、個人的感覚では男女とも余り感情移入ができないところも、インドでの評価と異なるところである。インド人青年が薦めた、1920年代、植民地時代のインドを舞台にした最新作「RRR」に期待したいところである。

鑑賞日:2023年3月7日