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アジア映画
レッド・ファミリー
監督:イ・ジュヒョン 
 もう一本、久し振りに会った友人から薦められた2013年制作の韓国映画である。監督はイ・ジュヒョン、脚本や総指揮をキム・ギドクが務めているが、双方とも初めて聞く名前である。しかし、2013年の東京国際映画祭コンペティションで上映され、観客賞を受賞したということであるが、結論的には全く期待外れの作品であった。

 冒頭、祖父、夫婦、女の子の4人からなる家族が、郊外で食事をした後、道路で車の接触事故を起こす。彼らは、それらの場所で写真を撮っているが、その地域は軍の基地近くで、直ちに警備兵が現れ「撮影禁止なので、カメラをよこせ」と命令されており、それに対し家族は事故の写真だと主張している。帰宅後、4人の内の妻スンヘ(キム・ユミ)が他の3人に、娘ミンジュが撮った写真で平壌に向けられているミサイルは確認できたが、それ以外のカメラが没収され、任務の完全遂行が出来なかったとして叱咤激励している。実は4人は、家族を装っているがスンヘを隊長とする韓国に潜入した北朝鮮のスパイ・グループであった。その「家族」は、庭のある広い一軒家を借りているが、その隣家に、祖母、夫婦そして一人息子という、同じような構成の4人家族の韓国人が住んでいる。この家族は夫婦間を含め絶えず喧嘩が絶えず、それが聞こえてくるスンヘたちは、「南の堕落」として軽蔑しているが、隣人として付き合いが始まることになる。そしてスンヘのチームは、別に潜行している指導部からの指令を受け、脱北者の暗殺などの行動を行っていくが、同時に、同年代の祖父と祖母、あるいは娘と息子の付き合いを皮切りに、隣人家族との関係が深くなっていく。そんな中、チームの夫役であるジェホンの妻が脱北したという情報を聞き、チームの危機を救うためスンヘが独断で別の脱北者の将校を殺害するが、実はその将校は北が送り込んだ二重スパイで、彼を殺したスンヘのチームは批判され、その代償として隣の家族を殺害しろ、という指令を受けるのである。行楽地に誘い出した隣人家族と時間を過ごす中で、結局スンヘらは、その任務を実行できず、娘役のミンジ(パク・ソヨン)を除き自害することになる。

 南に潜入したスパイ・グループが隣人家族との交流を通じて、当初は軽蔑していた南の家族を通じて、自分たちが北に残してきた家族愛に目覚める、という話であるが、まあそれだけである。そもそもスンヘ役のキム・ユミはそれなりの美形、娘役のミンジュも可愛い女の子といった感じで、冷酷なスパイ役には不向きである。それはあと二人の祖父役や夫役も同じで、こんな連中が厳しいスパイの世界で活動しているというのは余りに現実感がない。それは、最近「レベッカへの道」や「針の眼」等で読んだフォレットの小説に登場するスパイと比べても、あまりに軽薄である。北によるこんなスパイ活動が、本当に韓国で行われていたとしたら笑止千万であるが、他方それが脚本や総指揮を務めたキム・ギドクの作り物であるとしたら、あまりに安易な筋書きであったと評さざるを得ない。面白そうな素材だと思って観始めたが、途中で真面目に見る気がしなくなった映画であった。

鑑賞日:2023年3月31日