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ザ・バンカー
監督:キム・ビョンウ 
 韓国映画で、適当にレンタルショップで見繕った作品である。2018年制作で、監督は、以前に観た「テロ・ライブ」のキム・ビョンウ、主演のエイハブを、やはりその「テロ・ライブ」や「ベルリン・ファイル」、「哀しき獣」のハ・ジョンウ、北朝鮮の医師を「パラサイト」のイ・ソンギュンが演じている。

 冒頭、北朝鮮の指導者「キング」が、米国の大統領と、南北朝鮮の境界線で面談するというルビに続き、国連が北朝鮮への経済制裁を解除したというアメリカのテレビ・ニュースが映される。2022年に両国は、北朝鮮の非核化に合意、しかし2023年、その非核化は進まず、米中経済対立が激化し、米国経済は失速、ストライキが多発する中で米国大統領マクレガーの支持率が急低下している。マクレガーは、この状況を改善し、来るべき大統領選挙に勝利するために、「キング」に多額の懸賞金をかけると共に、CIAが企てた、傭兵を使い北朝鮮の要人を拉致する作戦を承認する。その「ラプター16」と命名された傭兵隊は、ラトビア人、コロンビア人、メキシコ人等の米国への不法移民から構成されているが、それを率いるのは、やはり不法移民である韓国人のエイハブ(ハ・ジョンウ)である。CIAの女マックが、「エイハブは、過去の作戦で失敗はなく、万一失敗しても切り捨てれば良い」と嘯き、エイハブに作戦開始を指示している。エイハブがいるのは、南北朝鮮の境界線に掘られた堅固な要塞。そこに交渉のためにやってくる人民武力相を拉致しようという作戦であるが、その時韓国上空にスカッド・ミサイルが遅い、それが迎撃されたりしている。それは米国では「北朝鮮指導者キングの最期の抵抗」と報道されるが、実はその「キング」自身を亡命させるためにCIAが仕組んだことが分かり、作戦は急遽彼の拉致が目的となるのである。この辺りの展開は、「あれ」という感じで、今一つ理解が出来ない。

 そしてそのエイハブは、CIAの女マックの指示を受けながら、仲間の傭兵と共に作戦に着手する。米国に残してきた臨月の妻からは、子供が生まれるので病院に行くという連絡が入っている。2024年との表示。傭兵に参加している普通のアメリカ人の「見習い」ローランドとの犠牲精神を巡る対話や、作戦で先頭に突入するホセへの説得などを経て、その地下要塞での戦闘が始まる。作戦は直ちに終了し「キング」を確保したと思われた瞬間、ホセが撃たれ、彼を残して撤収するかどうかがメンバーの中で揉めている。しかしこれは罠であった。「キング」には、医師のグループが同伴しているが、再び始まった追走してきた北朝鮮と思しき部隊とエイハブの部隊との激しい戦闘の中で、主任医師が死ぬ。エイハブらは、「キング」を拉致するが、生け捕りにしなければならない彼が傷ついたことから、主任医師を介抱していたもう一人の医師(イ・ソンギュン)に「キング」を助けることを頼み込むのである。

 ここで北朝鮮の部隊は中国が雇った兵士であることが明らかになる。北朝鮮は米国等への核攻撃を宣言しているが、それは中国の陰謀で、「キング」はそれを回避しようとして失敗し、亡命を企てたこと。そして「キング」が生き延びて証言すれば、その中国の陰謀が国際社会に知らされ、マクレガーも大統領に再選されるだろうというのがCIAのシナリオの様である。「この筋書き、ちょっと荒唐無稽過ぎない」というのが正直な印象である。そしてその後は、地下要塞での、エイハブと北の部隊との戦闘や「ラプター16」内部での裏切り等が、最新鋭のデジタル機器による両軍の戦闘状況把握を交え、そして離れ離れになっている北朝鮮医師との交渉や、それを受けての携帯等での処方指示により、エイハブが「キング」を生存させるべく尽力する様子等が延々と続く。米国側からはB21による要塞への爆撃等も行われ、「ラプター16」の隊員はほとんどが死ぬことになるが、エイハブは傷つきながらも生き残る。米国のテレビでは、「今回の騒乱の首謀者は傭兵のエイハブであり、米国正規軍は一切関知していない」、あるいは「そのエイハブは戦闘で死んだ」といった報道も行われて、エイハブはそれを見ることになる。しかし、北朝鮮医師の尽力もあり、結局「キング」は生存したまま、米軍の保護下に入り、エイハブと共に航空機で輸送されるが、それが今度は中国側の戦闘機に襲われ、エイハブと「キング」は空中に投げ出される。そして最後はパラシュートをつけたエイハブが、落下する「キング」を摑まえ、彼を抱えながら地上の草原に落下し、助かるところで映画が終わることになる。

 エイハブと北朝鮮の医師との会話が韓国語で行われる以外は、登場人物もほとんどは非韓国人、会話もほとんど英語による作品で、その意味ではハリウッド映画的な雰囲気である。戦闘の先端的な映像等も、相当凝った作りで、一般的な日本映画などは何度は足元にも及ばない技術も使われており、金は相当かかっていると思われる。また、北朝鮮の非核化や、それに絡む米国大統領選挙の動きといった最近の政治課題も挿入しながら展開させる発想もそれなりに理解できる。しかし、如何せん、中国との関係悪化により北朝鮮の首領が米国に亡命するという基本シナリオがあまりに現実感がない。その結果、エイハブ率いる傭兵隊の戦闘も、ただ派手に打ち合うだけの退屈なものになってしまう。戦闘の最中での仲間への気遣いや裏切り等、それなりに工夫された作品ではあり、また主演のハ・ジョンウやイ・ソンギョンが限界状況にある人間を頑張って演じていることは理解できるが、あまり記憶に残ることはない作品であろう。

鑑賞日:2023年5月24日