オアシス
監督:イ・チャンドン
「バーニング 劇場版」(別掲)及びこの直前に観た「ペパーミント・キャンディ」(別掲)の監督であったイ・チャンドンの2002年の作品である。「ペパーミント・キャンディ」が1999年の制作であることから、同監督によるこの次の作品ということになるのだろう。「ペパーミント・キャンディ」が今一であったという印象を話した友人から、同監督の別作品2つを紹介されたものであるが、その一つである。
これもなかなか個人的な評価が難しい作品である。二年半の刑期を終えて出所した男ジェンドゥ(俳優は、ソル・ギョング)が、バス停にいる男に煙草をねだったり、商店で豆腐の塊を貰い齧り付いたりしている。彼は前科三犯で、自動車事故、暴力行為、そして強姦未遂で逮捕されたという設定である。そして家族の下に帰るが、彼の奇矯な振舞いもあり、家族からは厄介者扱いを受けている。その彼が、逮捕の原因の一つであった交通事故で死なせた清掃員のアパートを花束を持って訪問し、被害者の娘で脳性麻痺障害の女コンジュ(俳優は、ムン・ソリ)と出会い、彼女に思いを寄せることから、話が展開していく。
いつものように詳細に話を追いかけることはしないが、兄夫婦は、ソンジュを理由に得た障害者用の綺麗な住宅に転居するが、彼女は狭い汚いアパートに取り残され、壁にかかった「オアシス」を描いた小さな絵にいろいろな思いを馳せている。そしてそこを訪れたジェンドゥは、初めは彼女を強姦しようとするが、その後は彼女を助け、外に連れ出したり、母親の誕生日祝いの食事会に彼女を同伴し、親族からは顰蹙を買ったりするが、コンジュとの関係は次第に深まっていく。その過程で、彼が逮捕された事件の一つで、コンジュの親を死なせた交通事故は、実は兄が起こしたにもかかわらず、既に前科者で定職もなかったジェンドゥが身代わりとなったこと等が知らされる。そして、コンジュの願いを受けて二人が身体の関係を結んでいる時に、兄夫婦に見つかり、ジェンドゥは再び強姦罪で逮捕。興奮すると言葉がしゃべれないコンジュは、その彼の無実を証言することができず、ジェンドゥは再び刑務所に帰っていくことになるのである。ジェンドゥのコンジュに宛てた刑務所からの手紙が読まれる中、コンジュは静かに部屋の掃除をしている姿で映画は終わる。
前回観た「ペパーミント・キャンディ」もそうであったが、まず主人公男優の奇矯な行動が、やはり非常に不自然である。もちろんそうしたキャラクターを演じている俳優の演技はたいへんだと思うが、それでもやはり違和感は残る。そしてそれ以上に強烈なのは、脳性麻痺のコンジュを演じたムン・ソリで、彼女はおそらく本当の患者を見て練習したと思われるが、その異様な雰囲気は鬼気迫るものであった。そして後半、恐らく「夢」という扱いなのだろうが、彼女が普通の女性に戻る映像が4回挿入される(最初は連れ出した電車の中、続いて出前でとったジャージャー緬を食べるところ、次がインド人母子との踊り、そして乗り過ごした地下鉄の駅)が、これを観るとさすがに美形の女優であることが分かるだけに、この障害者の演技は強烈であった。ただ物語りとしては、いくらジェンドゥが「変態」であっても、こうした障碍者に性的な思いを寄せるというのはさすがに無理があると感じてしまい、その結果、この「純愛物語」も個人的にはあまりピンとこないものになってしまった。
この作品は、第59回ベネチア国際映画祭でチャンドン監督が、銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞し、重度の脳性麻痺を患ったコンジュを演じた、ムン・ソリは新人俳優賞を受賞したということではあるので、その筋では受けたということなのではあろうが・・・。
鑑賞日:2023年10月5日