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義兄弟
監督:チャン・フン 
 続けてもう一本。本来は別のアイルランド映画を探すためにレンタル店に行ったが、その在庫がなかったことから、偶然目についたこの韓国映画を借りて観ることになった。2010年制作で、監督はチャン・フン。主演の「義兄弟」二人を、ソン・ガンホとカン・ドンウォンが演じている。ソン・ガンホは、今まで何本も観てきた有名俳優であるが、相変わらずコミカルなタッチで尚且つハードなアクションをこなすといういつもの役柄を演じているが、カン・ドンウォンというのは初めて見る若い、山下智久似のジャニーズ(という単語は今や死語か!)系の俳優である。

 冒頭、若い男が、女と電話で話しをしている。他方、組織の執務室で、ソン・ガンホ演じる人物も、妻らしき女と電話で話しをしている。若い男は、韓国に潜入している北朝鮮の工作員ジウォン(カン・ドンウォン)で、彼が話をしているのは北に残してきた妻。彼は「この仕事が終わったらすぐ帰る」と告げている。他方ソン・ガンホ演じるハンギュは、韓国国家情報院の北朝鮮工作員担当で、彼が話をしているのは離婚した妻であることが、夫々後で分かることになる。二人は同時にその電話を切るが、それはジウォンにある緊急指令が下り、またハンギュは、北の工作情報を入手し、それに向かうためである。それは、金正恩のはとこで南に亡命した男の暗殺計画で、それを実行するのは、ハンギュが追いかけている「影」と呼ばれる北の大物暗殺者。ハンギュは、彼を補足するために情報を受けた現場のマンションに急行する。しかし、ジウォンと共に住居に侵入した「影」は、冷酷無残にターゲットとその家族を殺害し、激しい銃撃戦とカーアクションの末、ハンギュたちの懸命な追跡を振り切ってまんまと逃亡するのである。混乱に紛れてジウォンもその場から立ち去る。そして、画面では金大中と金正恩の会談ニュースが流れる中、ハンギュは、上司への報告なしに行動し、暗殺を防げなかったばかりか、「影」も取り逃がした責任を追及され、南北緊張緩和による組織リストラもあり、国家情報院を首になるのである。

 6年後、しがない私立探偵として、韓国人と結婚した後、失踪したベトナムやフィリピンの女を捜索する仕事をしながらも、ハンギュはいつか「影」を仕留めることを忘れていない。そんな彼が、報酬稼ぎのための案件で、外国人妻の斡旋業をしている闇世界のベトナム人ボスと揉めて危機に晒された時に、その現場の工場で働く若い男に助けられる。ハンギュを助けたのは、6年前の事件後、北の組織から見放され、北の家族に会うこともできないまま潜伏していたジウォンで、二人はお互いに相手に気が付きながら、夫々知らない振りをしつつ、ハンギュの提案に従い、一緒にその探偵事務所で働くことになるのである。

 こうして二人は、ハンギュの狭い住居で同居しながら、行方不明者探しの仕事を行うことになる。ハンギュは、ジウォンが「影」と接触するのではないかと期待し、他方ジウォンは、ハンギュの情報を北に伝えることを考えている。そして、珍しくジウォンが「学校の同窓会出席」と称して出かけたのを追いかけたハンギュは、ジウォンが6年前の事件で北の指導部からは裏切り者とされていること、そしてそれもあり北にいる妻や子供を脱北させるために、脱北者の牧師に相談をしていたことを知る。テレビニュースでは、北の核開発が報道され、それに伴う国境管理の厳格化が行われていることも牧師から告げられている。一方ジウォンは、6年前の暗殺計画を漏らした北の同僚と遭遇し、裏切りを責めるが、同時に彼から、その事件でハンギュが国家情報院を首になったことも知らされている。夫々の事情を知ったハンギュとジウォンは、外国人失踪妻を探す仕事を進めながら、お互いに対する思いを感じ始めることになる。しかし、ある時に、夫々はお互いに相手の正体を知っていたことを知り、緊張が漂う。他方、6年前の事件を通報した北の同僚が襲われ、彼が収容されている病院を訪れたジウォンは、国家情報院の男たちに正体を見咎められ逃亡するが、ハンギュが説得し、情報院の追跡を諦めさせる。ただ、ジウォンの居所は、情報院の指示でハンギュが仕掛けたGPSもあり、情報院に筒抜けになっていた。

 脱北を企てる家族の危険を感じたジウォンは、再び「影」と連絡をとり、党への忠実さが変わっていないことを示すため、彼と共に脱北者の暗殺に向かい、ハンギュと情報院がそれを追う。そして最後の暗殺が終わったビルの上で、ジウォンは、そのターゲットの一言から、「影」による暗殺が党の指示ではないことを知る。そこに現れたハンジュを、「影」の前でジウォンは刺し殺すが、それは見せかけであった。気を取り直したハンジュの前で、ジウォンは、党に忠実でなかった「影」を非難しつつ、彼と揉み合いながらビルから落下。そしてそこで再び「影」からの銃弾を浴び瀕死になるが、その「影」も、最後はハンジュが仕留めることになるのである。

 こうしてハンジュは、本懐を遂げ、表彰を受ける。またジウォンも怪我から回復に向かい、独り住まいのハンジュに、「(再婚したトマト一緒に)ロンドンにいる娘に会うように」とフライトチケットを送っている。そして私立探偵事務所の留守を託す、ベトナム人ギャングと分かれた後、飛行機に乗ると、そこで家族を同伴したジウォンと再会し、映画が終わるのである。

 前に観た戦争映画と同様、殺人の残虐な場面は数々あるが、それほど気分が悪くならないのは、こうしたスパイ物での殺人が、余り現実感がないからなのだろう。そして南北分裂とそこでの諜報員の愛憎入り混じる関係が、最後はハッピーエンドになるという、偶々観た割には楽しめる作品であった。ただ、ジウォンの家族がどうして脱北できたのか、また彼らが一緒にロンドンに向かうことができたのかは余り説明されていない。しかしそうした軽い疑問を抜きにすれば、北による更なる核開発やミサイル・偵察衛星打ち上げ等もあり、益々緊張が高まっている足元の南北関係の中で、こうした世界が現在どのように展開されているかは興味深いところである。今まで数多く見てきた南北スパイ合戦映画の中でも、取り巻く環境が目まぐるしく変わる中、主人公二人の気持ちの微妙な触れ合いを描いた、それなりによくできた作品であった。

鑑賞日:2023年11月26日