VIVANT
演出・原作:福澤克維
9月のモンゴル旅行中に話題になったドラマ「VIVANT」を帰国後、時間をかけて観ることになった。当初は、この旅行記の追伸として掲載したが、10話、10時間近くに及ぶ大作ドラマであることから、独立した「映画評」として掲載し直すことにした。ドラマの演出及び原作は福澤克維であるが、彼は、今回の主演である堺雅人のヒットドラマ「半沢直樹」等多くの人気作を手掛けているという。
話は大手商社、丸菱商事勤務の乃木(堺雅人)が、取引先への誤送金で、会社に約T00億円の損害を与えたために、それを取り戻すべく、送金先であるバルサ共和国に飛ぶところから始まる。そのバルサ共和国は、架空の国であるが、モンゴルの西部に位置している。そしてそこで、送金相手から既に金が銀行経由で第三者の取引先に転送されていることが分かり、それを追って草原・砂漠地帯に入っていく。ところがそこでテロリストの自爆に巻き込まれるが、日本の公安刑事野崎(阿部寛)に助けられ、乃木が辿り着いた男が、実は公安が追っている謎のテロ組織の関係者ということで、以降、乃木は野崎と行動を共にすることになる。彼らに、日本の医療支援でその地に3年程滞在し、乃木が、タクシー運転手に砂漠に置き去りにされた際に助けてもらった現地人親子の小さな娘の難病治療の担当であった柚木(二階堂ふみ)も加わり、3人を追うバルサ現地警察との間での追撃戦に入る。在バルサ日本大使の西岡(壇れい)の裏切りや、爆発で父親を失った小さな娘の看病などを経て、3人は地獄のような砂漠(映画では「アド砂漠」と呼ばれていたが、「ゴビ砂漠」であろう)を横切ることになり、そこからモンゴル国境を越え、日本に戻って、誤送金の犯人探しとその犯人と結びついているテロ・グループの捜査を進めるところで、Part 3が終わることになる。
そうした架空の国バルサであるが、実際の撮影はモンゴルであったようで、そこでは、今回私が旅行で訪れたような草原地帯がふんだんに映されている。そして主人公たちが、かろうじて助けを求めるバルサ国日本大使館(しかし、前述のとおり大使に裏切られ、3人は砂漠に向かうことになるのであるが)は、ウランバートル中心部のスフバートル広場の近くという想定で、まさにこの広場で我々が見て、現地旅行ガイドのジャガさんから説明を受けたスフバートル像やチンギス・ハーン像、そしてそれを取り巻く特徴のある建物が登場していた。なるほど、そういうことだったのか、と頷きながら、そのドラマを観ることになったのである。
まあ、ドラマ自体は、やや奇想天外な話であるが、私が今回は訪れなかったモンゴル西部の砂漠が前半の主要な舞台になっており、そこでのロケは、都会のそれとは比較にならないくらい大変だったことは間違いない。個人的には、同じような砂漠体験は、かつてロンドンから訪れたサハラ砂漠北部くらいであるが、中央アジアのそれも、それに負けず劣らず過酷な感じである。そうした世界を舞台に選んだということで、このドラマが話題となったのも頷ける。尚、Part3まででは、主役級でクレジットされている役所広司や二宮和也はまだちらっとしか登場していない。ジャガさんの説明によると、スフバートル広場の撮影では役所広司も登場していたということなので、またこれから舞台はモンゴルに戻り、今回私が観た風景が改めて映されることになるのだろう。Part4以降もまた観ることになりそうだ。
2024年9月23日 記
そしてやや間が空いたが、今回の旅行中、話題になったドラマ「VIVANT」のPart4以降をいっきに観ることになった。
Part3は、乃木(堺雅人)、野崎(阿部寛)そして柚木(二階堂ふみ)がバルサ現地警察の追跡を逃れ日本に帰国。そこで誤送金の犯人探しとその犯人と結びついている「テント」というテロ・グループの捜査を進めるところで、終わっていたが、Part4では、それが進み、誤送金の実行犯である太田という丸菱商事勤務の女が、実はテロ筋から送り込まれた有能なハッカーであったこと、そしてそれを仲介した乃木の同期入社の親友山本が、テロ組織と結びついていたことが判明する。それを掴んだ乃木は、山本を拘束・追求し、テロ組織の概要を白状させた上で彼を自殺と見せかけて殺すが、この過程で、実は乃木は、公安とは別の、日本の秘密警察組織「別班」のメンバーであったことが明らかにされる。そこにはそれまでの乃木とは異なる冷徹無慈悲な男が現れることになる。一方バルサ国に残してきた難病のジャミ−ンがドラムに付き添われて来日、柚木が手術の手配を整えることになり、乃木はT5百万円近い金額をその手術に寄付している。
そしてPart5。山本自殺事件を調べた野崎は、それが他殺であり、そこに乃木が絡んでいることを掴む。ジャミーンの手術などでの乃木、野崎、柚木、ドラムらによる和やかな懇親の裏で、乃木と野崎の騙し合いが進むが、並行して乃木の生い立ちから「別班」加入までの経緯が明らかにされている。そしてその過程で、かつて公安から派遣されたが、バルカで殺されたとされていた乃木の父親が、実は生存しておりテロ組織の首謀者である疑いが判明。そして乃木と野崎は夫々別にバルカに戻り、乃木は、誤送金の相手方であるアリを脅し、自分の父親が首謀者であることを、また野崎は爆発現場の録画再現で乃木が、実は瞬間的に発砲していたことを確認し、彼が特殊訓練を受けた男であることを確信している。舞台は再びバルカ国に戻り、私が訪れたスフバートル広場と周辺の建物群が改めて映される。そして、その前にちらっと現れたテロ組織のボス、ベギ(役所広司)とその息子で腹心のノコル(二宮和也)が本格的に舞台に登場することになるのである。
Part6。それぞれテロ組織を追う乃木と野崎。乃木は、保釈金を立替えて引き入れた天才ハッカー太田を使い、乃木が、最後は家族と共に助けたアリから渡された暗号を解読し、テロ組織の拠点場所の特定に成功。そして乃木は、ジャミーンの手術成功を見届け、その後柚木の彼に対する想いを受け止めることになる。
Part7。しかし、乃木には「別班」指導者の女から、「(テロ組織の最大の標的である日本)国家の危機を救うため」の指令が下され、組成されたメンバー5人と共に再びバルサ国に向かう。その飛行機には野崎も同乗している。
空港で野崎と別れた乃木を、野崎はバルサ警察のチンギスと共に追うが、乃木はそれをかわし、通信傍受で得た「テント」とロシア組織の接触情報を得て、まずロシア組織を乗っ取った上で接触地点に向かい、そこに現れた「テント」の首領の息子ノコルを拘束する。しかし、その直後、乃木は、「別班」の仲間を裏切り、4人を射殺、一人を拘束して「テント」側に寝返るのである。
Part8。「テント」本部で、乃木と重傷を負ったもう一人黒須(松坂桃季)が檻に入れられ尋問を受ける。そこに現れたベギは、一旦二人を銃殺しようとするが、ノコルの機知で救われ、乃木が主張するように、実の父親であるベギに会うために組織も裏切ったことを確認するための調査を行う。最後のDNA鑑定で、ベキとの親子関係が証明されたことで、ベギは乃木に心を許し、組織への貢献を求めることになる。テロ組織「テント」の軍事部門の視察。しかし、実は「テント」のもう一つの事業は孤児院の運営であり、むしろその経営のためにテロを請負い、資金を確保していたのである。乃木は早速孤児院運営者の横領を摘発してベキの信頼を強めている。そしてその「テント」が現在バルサ国の北西部の土地を買い進めていることを知る。
Part9。その土地買い占めは、偶々彼らがそこに希少金属である純度の高いフローライト(蛍石)の鉱脈を発見したことであり、それにより将来的な孤児院経営の財政基盤を確保しようという意図からのものである。乃木はその資金不足を補うため、「別班」の関係を使った日本株の信用取引を提案し、インサイダー情報を使い大金を確保する。そしてベキが、バルサ国の内乱の中で、公安に裏切られ置き去りにされ、幼少であった乃木と妻を失い、しかしその後絶望から立ち上がり現在に至った経緯が詳細に回想されるのである。乃木を砂漠で救い、その後死んだジャミーンの父親も、ベキの恩人であること、そして乃木がジャミーンを介抱した家は乃木の生まれた家であったこと等が語られる。フローライト開発に必要な土地の手配も略完了した。
しかし、土地買収について、バルサ国の支配者たちから横やりが入る。更に元々乃木に敵対的であったノコルが入手した映像で、死んだと思われた「別班」の4人が、実は乃木が意図的に急所を外して撃っていたことが分かり、再び乃木は拘束され、ベキが刀を抜き彼に振り下ろすのである。
Part10。振り上げられた刀は、吊るされている乃木のロープを切る。ノコルを始め皆が驚く中、ベキは、乃木が「別班」の仲間を裏切らなかったことを褒め、そうであればこそ、「テント」のためにも働いてくれると語り、一緒に吊るされていた同僚の黒須も解放され、再びベキと働くことになる。そこではフローライト開発への政府からの提案が入るが、「テント」の共同開発者の裏切りで、ワニズ外務大臣が率いる政府が、「テント」から主導権を奪っている。しかし、それもどんでん返しで、出席していた西岡大使が、野崎の仕掛けた盗聴器により映された、外務大臣との横領現場を理由に脅され「テント」側に寝返ることで、ベキらはそれを取り戻すのに成功するのである。ワニズらは、横領等でチンギスらバルサ警察により逮捕される。そして乃木は、野崎の協力を得るためにということで、ベキ他2人の首脳の日本公安による逮捕と日本への送還、そして「テント」の解体と平和組織への変更を提案し、ベキもそれに受け入れることになる。ベキの送還に伴う草原での別れを経て、最後の舞台は日本に移る。しかしそこでは最後のどんでん返しが待っていた。ベキたちは、日本の「テント」の協力者により警察から逃れる。そしてベキは、若き彼とその家族の、ベルサでの騒乱からの救出を拒んだ当時の上司である政治家に対する復讐に向かう。日本でのテロは計画になかったが、ベキの中でのその積年の恨みは消えることがなかったのである。「別班」指導者から、当時の情報を得た乃木は、その現場に向かい、最後はベキ他2名を射殺する。政治家は救われるが、乃木にその後の活動への釘を刺される。そして、全ての任務を完了した乃木が、日本の神社で、柚木とジャミーンと再会し、抱き合うところで、この長いドラマが終わるのである。
ということで、モンゴル旅行で知ることになり、その撮影現場であるスフバートル広場や草原などを訪れたことで、初めは旅行時の景観を思い出しながら見始めたドラマであったが、途中からはそれを離れ、話の展開を追いかけることになった。確かに、多くの日本人有名俳優のみならず、モンゴル人他外人俳優も使いながら、どんでん返しに溢れた物語を作り出している。それは、私が多く読んできた英国などの推理作家によるスパイ小説で繰り広げられてきた、またそれに類する多くの韓国映画でも描かれてきた世界である。私は、そうした世界を扱った日本の映画やドラマがないことに不満を持ってきたが、この作品を観て、現在の「平和ボケ」した日本でも、こうした作品を生み出せる力があることに安堵したのであった。そして主演の堺雅人や阿部寛、役所広司を始め、多くの俳優が中々の演技を見せていることについても強い共感を持つことになった。もちろん堺の演じた、当初は惚けた、しかし実はそれは意図的な見せかけで、実はとんでもない腕と頭を持った諜報員である、という主人公はやや非現実的ではあるが、そこにもう一人の自我を登場させて時々対話を繰り広げる、というのも考えた設定であった。
現在イスラエルと戦闘中のハマスを始めとする多くのテロ組織は、同時に地域のための病院や学校、孤児院なども運営し、地域社会の支持を集めると共に、子供の頃から組織への愛着を育成するという側面を持っている。ここでの「テント」も、そうした組織として描かれているのは、たいへん現代的な設定であると言える。ただ、ここでは、そのテロ組織が資金の確保の目途がついたところで、平和組織に転換し、またその国バルサ国が、かつての内乱の時代を乗り越えて、「テント」出身のノコル(二宮和也)に指導される「平和国家」に生まれ変わるというハッピーエンドになっているのはご愛敬であろう。
このドラマの続編も構想されているという話も聞く。それが公開されたら間違いなく観てしまうだろう。久々に楽しく観た日本のTVドラマであった。
2024年10月9日 記