Where in the world is Osama Bin Laden?
監督:モーガン・スパーロック
シンガポールの日本語ラジオ放送FM96.3のプレゼントで当たったチケットが今日到着したのは良いが、上映日を調べたところ、今日から3日間のみであることが判明。明日、明後日は都合がつかないことから、慌てて今日の夕刻、上映映画館であるハーバー・フロントはVivocityショッピング・センター内にあるGolden Villageに駆けつけた。ゆったりした会場には、月曜の夕刻ということと、映画の性格もあってか、観客は最終的に20人位で、ガラガラ状態。結果的に映画がそれなりに面白いものであっただけに、やや残念であった。
さて、その映画であるが、監督のモーガン・スパーロック(1970年11月、米ウェストバージニア生まれ)が自らオサマ・ビンラディンを求めて、彼の関わりの深いモスレム諸国等を旅し、そこで多くの人たちと交わした会話やインタビューを「ロード・ムービー」風にまとめた作品である。この監督は、以前「Super Size Me」という、アメリカでファースト・フードだけを1ヶ月間食べ続けると身体にどのような影響が出るかを、自ら実験台になり、ドクターストップを命じられながらも続ける、という諧謔的社会批判映画で脚光を浴びたということである(私はまだこれは見ていない)が、今回は、もう少しシリアスなテロリズムと米国の関わりという主題に挑戦している。その動機は、監督夫妻に初めて誕生する子供の未来のため、米国と世界の安全を願ってということで、監督のモスレム諸国等探訪と並行して、出産を控えた米国にいる奥さんの様子が語られることになる。
その首に、今世界で最も高い懸賞金がついている男、オサマ・ビンラディン。最後にアフガンで確認されて以来行方の知れないこの男を求めて、モーガンは旅に出る。まずオサマの側近の多くを輩出しているエジプト。過激派を輩出しているモスレム同胞団の関係者等に加え、一般人と思しき人々を含め、「オサマは今、どこにいるのか?」「彼をどう思うか?」、あるいは「アメリカをどう思うか?」と矢継ぎ早に質問を飛ばす。しかし、そもそも最初の質問「オサマは今、どこにいるのか?」とまず聞くこと自体が、ややコミカルであり、問題の重さの割に、余りシリアスさを感じられない。聞かれる方も、ややきょとんとしながら、ほとんど冗談で返答するケースが多い。これが彼の手法で、シリアスな問題を、冗談に包みながら本音を引き出そうとしているように思える。エジプトから、2000年代初めにオサマが連続爆破テロを実行したモロッコはカサブランカへ。続いてヨルダン、イスラエル、サウジ、アフガンと続く。ヨルダンでは少数派であるキリスト教の牧師の話を聞き、イスラエルでは偶々不審物の無人操作銃を使った処理現場に出くわしたり(結局ただの空ケースであったが)、ユダヤ教ファンダメンタリストに突撃インタビューを試み、本気で追い返されたりする。
圧巻の一つはサウジである。そもそもビジネス先の推薦があり初めて滞在許可自体が下りるというこの国に、こうした形でカメラが入るということ自体、たいへん珍しいのではないか。オサマの出身一族である大金持ちのビンラディン財閥の突撃取材を試みたり、シンガポールと変わらない近代的なショッピングセンターを歩いている全身黒装束で覆った女性通行人にインタビューを試みたりする。許可を得て、教師立会いの下、19歳の学生二人のインタビューを行うが、「イスラエルをどう思うか」という質問を発したところで中止される。サウジのモスクでの一般大衆の祈りの撮影など、よく許可されたなという感じで、この国の生の姿を楽しむことができる。
サウジからアフガンへ。かつてオサマの基地があったという、山岳地帯のTara Boraを訪れるが、同行したアフガン人が、「ここを観光地にしたい」と言っていたのが印象的であった。最近、日本人のODA関係者が誘拐射殺されたこの国の厳しさを正面から描写するのではない。しかし、諧謔の中に、さらっと人々の苦しい実情を語らせている。このあたりが、この監督の本領なのであろう。そして映画の最後は、現在オサマが潜んでいる可能性が最も高いと言われるパキスタン。モーガンは国境山岳地帯を目指すが、ある地点で「外人侵入禁止」地域となり、そこで今回のオサマを探しての旅は終わることになる。
米国に帰ったモーガンを待っていたのは妻の出産。彼の奥さんの本当の出産を映したところで、約1時間半のこの映画は終了する。
今回モーガンが旅した国の中で、エジプトとヨルダンは、私も80年代に観光で訪れたことがあるが、冷戦最中のこの時代は、エジプトから帰国直後に発生した警察官の暴動などを除くと、直接のテロの脅威もなく、今から考えると平和な時代であった。その後の冷戦崩壊と、局地紛争の勃発、更にハンチントン言うところの「文明の衝突」の始まり。アフガン、イラクを中心に、今やこれらの国の多くは、能天気の観光客が物見遊山を行うような場所ではなくなってしまった。しかし、そうであるが故に、この遊び心と諧謔心に溢れたこの監督が旅をすると、そうした危険が遠のき、なにかこうした国が非常に身近に感じられるから不思議である。金融危機と大統領選挙の真っ只中、大真面目な議論で賑々しい米国の片隅に、こうした流れも確かに存在するというところがアメリカの面白いところかもしれない。
鑑賞日:2008年11月3日