Dunkirk
監督:Christopher Nolan
日本の新聞でも若干の話題になっていたので、久し振りに当地の映画館に足を運んだ。
第二次大戦初期の1940年5月、ナチの圧倒的な軍事力の前に、フランスはダンケルクの海岸に追い詰められた、英国、オランダ、フランス、米国連合軍の40万人にも及ぶ兵士が、奇跡の脱出を行う様子を描いた、その4カ国合作の映画である。監督のノーランが、脚本、製作も手がけている。
朝日新聞での姜尚中の解説によると、この「史上最大の救出作戦」は、英国チャーチル首相の決断で決定され、「その司令を受け、ドーバー海峡に浮かぶ軍艦、民間船や艀を含む900隻もの、ありとあらゆる船が緊急徴用されました。それも決して強制ではなく、今でいうボランティア精神で、刻一刻と迫る敵の攻撃におびえながらも、自主的に救出に向かった船もありました。この一連の官民一体の史上最大の撤退戦こそが『ダンケルクの戦い』であった」とのこと。また、ネットでの監督のコメントによると、「本作は典型的な戦争映画ではなく、サバイバル(撤退)の物語」であるという。そして彼はそれを、陸・海・空3つのストーリーが同時に展開する形で描いていく。出演は、ネットによると、「ノーラン作品常連のトム・ハーディ、キリアン・マーフィのほか、『ブリッジ・オブ・スパイ』でアカデミー助演男優賞を受賞したマーク・ライランス、ケネス・ブラナー、『ワン・ダイレクション』のハリー・スタイルズら」ということであるが、俳優達にそれ程興味のない私にとっては、それはあまり重要ではない。ワン・ダイレクションのアイドルが出ているというのは、10年ほど前の、クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」に嵐の二宮和也が出ていたのを連想させた。
さてそうした事前知識を元に、この映画を見た訳だが、実は私は、これは司令塔であるチャーチルの意思決定を巡る議論があり、そしてそれが実際に実行に移されていく様子を中心に描いたものだと思い込んでいた。しかし実際には、そうした本部での様子は全く描かれず、ノーランはひたすら現場の細部にこだわっている。陸では、ダンケルクの街の防衛ラインの外側から、英軍兵士が逃げてくる場面から始まるが、空からは町は包囲されている、というドイツ軍のビラが撒かれている。狙撃を受けながら町に逃げ込んだ兵士が目にするのは、長い海岸線に集結した多くの兵士たち。しかし、彼らを輸送する船は少ない。乗船を待つ兵士に、空からドイツ空軍の攻撃機が襲い掛かり、かろうじて乗り込んだ軍艦も爆弾で沈没する。「英国空軍はどうなってるのだ」という兵士の嘆きに呼応するかのように、英国から飛び立ったスピットファイアー3機が、燃料計を気にしながら、ドイツ機と空中戦を繰り広げる。
他方、英国からは、小さなプレジャーボートの所有者が、子供たちと出港する。途中で沈没した英国船に残されていた兵士を救出するが、その兵士は、直ちに英国に戻れ、と暴れるが、船長はそれを無視し、ダンケルクに向かう。その船長は、ドイツ機との空中戦で傷つき、海上に着水した英国機の乗務員を、水没寸前に助けた後、Uボートの魚雷を受け沈没した船に乗り合わせた兵士も救助する。しかし、浜に捨てられた船に乗り込み、満潮と共に出発しようとした兵士たちには、正体不明の狙撃が浴びせられ、彼らも船を捨てざるを得なくなる。
そうした、必死の脱出を試みる兵士たちに襲い掛かる数々の苦難が、監督がここで描きたかったことなのだろう。しかし、その苦難が、どのように乗り越えられたかについては、必ずしも説得力あるように描かれている訳ではない。そして最後に、小さな船が海岸に到着し、兵士たちが歓声を挙げ、兵士たちが去った後に、現場指揮の将軍が、「フランス兵を助けるのだ」と、桟橋の上に一人残ることで、この脱出作戦の成功を示すことになるが、それまでの数々の苦難が、いとも簡単に乗り越えられてしまうのが、やや唐突である。ドイツ軍が制空権や海域を圧倒的に制圧していた中で、どのようにこの作戦が成功したのかは、あまり納得がいかない結末である。海岸に集結した小型船の数々も、これらで、本当に40万人の兵士を英国まで輸送したのか、と思える規模である。ドイツ軍機を撃退した英国空軍のキャプテンが燃料切れで、遥か先の海岸に着陸し、飛行機を燃やしたところで、ドイツ軍に捕えられるところが短いカットで示されるのは、多少感動的ではあるが・・。
そんなことで、期待して見た割には、今一つ印象が残った作品ではなかった。因みに、日本での劇場公開は夏休み明けの9月であるというが、日本でこの作品がどのように受け止められるかは興味あるところである。
鑑賞日:2017年7月28日