イルミナティ
監督:ジョニー・ロイヤル
現在の生活では、スポーツクラブのプールにしろ、テニスにしろ、ウィークディが中心で、週末や祭日は暇になってしまう。この日も、通常はテニスなのであるが、祭日ということで出来ずに暇を持て余していたことから、最近の劇場上映の映画を探したところ出てきたのが、この作品であった。ダン・ブラウンの小説でも使われていたこの秘密結社の真実に迫るという宣伝文句につられて映画館に足を運んだのであったが、結論的には全く期待外れの作品であった。
イルミナティは、18世紀末、ドイツはバイエルン州インゴルシュタット大学教授であったアダム・ヴァイスハウプトが1776年に創設した秘密結社であるが、短期間の活動の後、1785年にはバイエルン政府により禁止され、映画によると最終的に1830年には完全に活動を終えていたという。しかし、ダン・ブラウンではないが、その秘密結社としての性格から、その後もこの組織が生き延び、それに属するメンバーが、枢要ポジションから世界の動きに秘密裏に影響を及ぼしている、という伝説が、時には面白おかしく語られてきた。この映画は、そうした集団の実際の姿を研究者のコメントを中心に描いていく。監督は、映像作家でフリーメーソン研究家であるジョニー・ロイヤル。
しかし、ネットのコメントでも書かれているとおり、「世界を繰る闇」という副題は、事前情報なしでこの映画に足を運んだ私のような者に、この集団が関わる陰謀事件を扱った映画であるかのような先入観を持たせることになる。そして映画が始まり、何人かの専門家が、上記のようなこの集団設立の歴史等についてコメントするのを聞きながら、さあ、これからどういう事件が始まり、どう展開するのか、と期待しながら、ノイシュヴァンシュタイン城等の美しいバイエルンの自然を写した画像に、半分はかつてのドイツ生活の懐かしさも感じながら酔いしれることになる。そしてそのメンバーが登場。18世紀末の啓蒙思想の時代に、当時のイエズス会の教えに抵抗しながら、科学的・合理的な世界観と自由主義を目指すというこの集団の意図と、秘密結社であるが故のメンバーの厳選と秘密保持の誓約といった特徴が、数々の宗教儀式の映像と共に説明されることになる。しかしその辺りで、「あれ、これは筋書きや展開のあるドラマではない、この集団の研究紹介のドキュメンタリーではないか」ということを認識することになるのである。多くの新興宗教と同様、優れた行政手腕を有する片割れによる、集団の組織的拡大と内部組織の整備等。そしてそれが勢力を増すにつれ、次第に政治権力の警戒を強め、ヴァイスハウプトと片割れの仲たがいもあり、権力の弾圧の中で最終的に消滅していったことが紹介されるが、そrは多くの新興宗教が辿った運命である。しかし、かつて大本教をネタに高橋和己が壮大なフィクションとして描いた「邪宗門」等とは異なり、この秘密結社は、実際には特に社会的なインパクトをもたらすような事件は起こしていない。その意味で、弾圧されるほどの脅威ではなかったのではないか、と思えるくらいであり、それが、その後伝説として生き残ったというのも、理由が良く分からない。映画の最後に、登場した研究者たちが、笑いながら「現在イルミナティなど存在しない」という時、そうであれば、この組織を取り上げる現代的な意味合いもほとんどないな、と感じてしまうのであった。
恐らく、私はこの作品に「邪宗門」のようなドラマを期待したのであったが、実際は「NHKスペシャル」といったテレビの報道番組で取り上げられれば十分で、ネットでコメントされているとおり、あえて映画館に足を運ぶ必要はない映像作品であった。時間潰しとしては、ダン・ブラウンの「天使と悪魔」のDVDでも借りて、自宅で観ていた方が良かった、というのが正直なところであった。
鑑賞日:2021年2月11日