コンドル
監督:シドニー・ポロック
1975年制作の、アメリカ映画で、監督はシドニー・ポロック、主演は若きロバート・レッドフォードで、同じく若いフェイ・ダナウェイが彼を助ける女性を演じている。昨年読んだ中薗英助の「スパイの世界」(「川崎通信」に別掲)で紹介されていたJ.グルディーという作家の原作の映画化で、小説の原題は「コンドルの6日間」、映画ではそれが「コンドルの3日間」となっている理由(何故3日間短縮されたのか?)は不明である。今から半世紀を遡る、私の大学時代の作品であることから映像の古さは否めないが、流石大物監督の作品と言うことで、至る所にスリリングな展開があり、スパイ物エンターテイメントとして、現在見てもそれなりに楽しめる作品となっている。
ニューヨークにあるアメリカ文学史協会で働くターナー(R.レッドフォード)は、遅刻常習で調子のよい若い分析官である。実はこの事務所はCIAの一部隊で、8人のスタッフが世界中の書籍や新聞情報などを分析し、そこに隠された暗号や情報を解読する作業を行っている。
その日、ターナーが事務所から昼食の調達に出かけた留守に正体不明の男二人が押し入り、不在であった彼を除く6人が射殺する。戻ったターナーは、同僚の射殺死体を見てパニックとなり、本部に助けを求めるが、本部の対応も何か煮え切らない。そしてそれから、本部も関わっていると想像される、この闇の殺し屋たちから逃亡するターナー。その過程で、偶々銃で脅し「拉致」したキャッシー(F.ダナウェイ)の自宅に身を隠しながら、一連の事件の裏を探る彼の姿が描かれていくことになる。その過程で、当初は怯えていたキャッシーも次第に彼に惹かれ、彼の行動を助けるようになっていく。そして最後は、今回の一連の事件が、ターナーらの分析が、偶々CIAの別の部署の実際の作戦計画(石油確保のためのアラブ産油国への武力侵攻)をそのまま報告していたことが原因で発生したCIA内部の抗争であったことが明らかになるのである。
冒頭に発生する部署全員の射殺事件は何のためであったのか、そして偶々それを免れ、逃亡しながら、その真相を探るターナーを描くサスペンスであるが、登場人物の関係が分かり難いことから、その展開を追うのは簡単ではない。そしてそれがCIA内部の抗争であった、という結末も、そのために部局全員を始末するというのはやや無理があるのではないか、というのが率直な感想である。
しかし、その組織に翻弄されるターナーを演じる若きR.レッドフォードはなかなか格好良く、間違いなくこの映画で人気は爆発したのだろうな、と感じさせる。また始めは偶々通りかかっただけで、彼に銃で脅され自宅に拉致されるが、その後彼に惹かれ、彼を助けることになるキャッシーを演じる若きF.ダナウェイも、その役柄自体はやや無理があると思われるが、演技自体はなかなか魅力的である。
最後の場面で、真相を突き止めたターナーが、自分の上司に向かい、「この事件の真相を新聞で公開する」と告げる。その上司は、「記事が出ると思うのか?そんなことをしたら自分がどうなるか分かっているのか?」と答える。ターナーは、「記事になるさ」と答えながら、彼から離れていく。それがどうなったのかは分からないまま、この映画が終わることになる。それは監督の意識的な演出であることは理解できるが、個人的には残尿感を残すことになったのは残念であった。
鑑賞日:2022年2月27日 記