スパイ・ゲーム
監督:トニー・スコット
先日観た、ロバート・レッドフォード主演のスパイ物の延長上で、友人から薦められた、同じくレッドフォード主演の作品。監督は、「トップ・ガン」等で有名なトニー・スコット。2001年の制作なので、先日観た1975年の作品よりは、圧倒的に映像は新しいが、その分レッドフォードは歳をとり、渋い退職直前のCIAエージェントを演じている。しかし、ここでの主人公は、彼が助ける若きエージェント、トム・ビショップを演じているブラッド・ピットであろう。この作品を薦めた友人の解説では、これに先立つブラッド・ピット主演の「リバー・ランズ・スルー・イット」で、監督として、若い頃の自分に容姿が似ている彼を売り出したレッドフォードが、今度は彼との共演という形で作ったのがこの作品で、いわば父がその息子をエージェントとして(そして映画俳優としても)育て、そして最後は全財産を投げうって助ける映画、として観ることが出来るという。
映画は、1991年、中国蘇州にある監獄にピット演じるビショップが潜入し、何者かを脱獄させようとして失敗し、逆に捉えられ拷問されるところから始まる。そして画面は一転、ベテラン・エージェントであるネイサン・ミュアーが、CIAの本部で退職日を迎えているところに移る。荷物を整理している彼の下に、本部から会議への招集がかかる。近々米国大統領の中国訪問が予定されている中、中国で逮捕されたビショップは、彼が過去に数々の作戦で一緒に働いてきた男であったことから、ミュアーに、ビショップに関わる情報を証言するようにとの要請である。ミュアーは、CIA本部の人間たちの間に、ビショップを見捨てる方針を感じ取り、策を講じながら、「息子」である彼の救済に知恵を尽くすことになるのである。
こうして映画は、ミュアーとビショップの過去のオペレーションの回想を挟みながら展開していく。まずは、1975年のベトナム。ここでミュアーは、ビショップと出会い、狙撃手として彼を使い、ラオス軍人の標的を仕留めることになる。続いて1976年、ベルリンの壁崩壊前の東ベルリンでの東独要人の西側への逃走支援。これは情報が洩れていることを察したミュアーが、作戦実行中のビショップに、ギリギリのタイミングで作戦中止を指示することになる。その要人を見捨てたことに怒り狂うビッショップを、ミュアーは、「少なくともお前は助かった。命令に従え。」と諭す。そして1985年のレバノンはベイルート。激しい内戦が繰り広げられる中、ミュアーとビショップは、あるアラブ大物テロリストの暗殺計画を進める。あからさまな暗殺は、相手方の報復を含め、内戦の更なる激化をもたらす事から、自然死に近い暗殺計画を立て、報道写真家を装ったビショップは、現地で人権活動家のボランティアとして医療支援を行うエリザベス=ハドレー(キャサリン・マコーマック)を通じてテロリストの医者と知り合う。その医者に、家屋を殺したのはそのテロリストであると吹き込み、彼に医療行為を装った暗殺を実行させようとし、ビショップはそれを混乱する市内で支援するが、結局は「バックアップ・プラン」であった反対派の爆弾でテロリストは死亡する。そしてそれを不満としたビショップは、それ以降ミュアーからは離れていくことになる。またミュアーは、自分たちのことを知り過ぎたエリザベスを、かつて中国の爆破事件に関わり中国から追及されていたこともあり、中国に引き渡すことになる。しかし、ビショップは、エリザベスへの想いを断ち切れず、今回の香港での単なる盗聴作戦の域を越え、単独で蘇州の監獄にいるエリザベスの救出を試み失敗したのである。それを知ったミュアーは、ビショップを見捨てようとするCIA幹部の裏をかき、ビショップとエリザベスの奪還作戦を企てていくのである。
回想シーンで映されるベトナム、ベルリン(西側に逃れたビショップとミュアーが言い合う屋上に、「FUJIFILM」の大きな宣伝版があり、何度も映るのはご愛敬!)、そして内戦下のレバノンの様子など、金をかけた映画である。また過去の回想場面で、二人がそれなりの若さで登場しているのも、現在の場面での容貌と差があり、メーク技術の力を感じさせる。そして何よりも、幾多の試練と諍いを乗り越えた「師弟愛」を完結させるために、CIA最後の一日に策を練り、自身は全くアクションを取ることなくビショップとエリザベスの奪還に成功し、何気なくラングレーを車で立ち去るミュアーは恰好良い。ハリウッド制作の上質なスパイ映画としてたいへん楽しんだのであった。
鑑賞日:2022年3月2日