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リバー・ランズ・スルー・イット
監督:ロバート・レッドフォード 
 先日観た、ロバート・レッドフォードとブラッド・ピットのコンビによる1992年制作のアメリカ映画。二人のコンビ、とはいうものの、この映画ではレッドフォードが監督、ピットが主演の一人という組み合わせで、俳優としてのレッドフォードは登場しない。ネット解説では、レッドフォードの監督作品としては、3作目で、同年のアカデミー賞撮影賞を受賞、またピットは、この作品で若手俳優として評価を確立したということである。

 こうした二人のコンビであるが、内容は、ここのところ観てきたスパイ物とは全く異なる、1910年―20年代の、アメリカモンタナ州の田舎町での家族物語、なかんずくノーマンとポールという二人の兄弟の絆を、この地域の雄大な自然を背景に、ノーマンの語りで淡々と描いた作品である。これを薦めた映画通の友人からも、スパイ物とは全く異なるものだと聞いていたが、暇な日曜日の午後の時間潰し的に観ることになった。

 モンタナ州のミズーラという田舎町で、厳格な牧師の息子として育てられたノーマン(クレイグ・シェイファー)とポール(ブラッド・ピット)兄弟は、幼少時から、父親の唯一の趣味であるフライ・フィッシングに親しんでいる。長じた兄は、東部の大学に進学、弟は地元の街で新聞記者となる。そして長く家を離れていた兄が、久し振りに故郷に帰ったところで、物語が展開する。しかし、それは「スパイ物」のそれとは異なり、兄の恋人との出会いや、そのいけすかない兄との軋轢、そしてインディアンの恋人と差別意識の残るバーで踊りまくったり、カード賭博にのめり込んだりする弟への懸念、といった何気ない米国の田舎町での日常生活が進んでいくだけである。そうした中で、二人の兄弟にとっては、フライ・フィッシングが、何かあった時の共通の息抜きとなったことが語られる。特に、真面目な兄に対し、ピット演じる「奔放」な弟が、このフライ・フィッシングでは天才的な腕前を持っていたことが強調されている。そして、その弟は、ある事件で殴り殺されることになるが、後年年老いたノーマンは、その思い出の河でフライ・フィッシングをしながら、そうした日々を回想するのである。

 賢兄愚弟物語の典型であるが、まず感じるのは、モンタナの自然の美しい映像。確かに、上記のとおりアカデミー賞撮影賞を受賞しただけのことはある。これは監督であるレッドフォードにとっても「原風景」であるのだろうか?もちろん同じ田舎の風景でも、険しい山脈の中、急流が流れる日本と違って、緩やかな丘とその中をゆったりと流れる河の景観が心を和らげる。そしてそんな自然の中でおおらかに育つ兄弟。性格は異なりながらも、強い絆で結ばれていることが、話の端々に感じさせる。そして、奔放な弟を演じる若きブラッド・ピットは、確かに印象的である。ただ、彼はこの作品で「ブレイク」したという割には、映画自体は、正直一世紀程前の、米国の田舎の景観を楽しむ以外は、取り立てて見所もなく、この作品が、映画としてそれほど評価されたという感じもしない。もちろんそれは、あくまで私の個人的趣味からの印象で、特に米国の一般の観客にとっては大きく異なるものなのかもしれないが・・。そんなことで、取りあえずはレッドフォード監督作品は、当面観る必要はないだろうと感じている。

鑑賞日:2022年3月6日