ジャッカルの日
監督:フレッド・ジンネマン
この前に観た「オデッサ・ファイル」と同じフォーサイスの、デビュー作にして出世作の映画版。「オデッサ・ファイル」よりも1年早い1973年制作(私の大学生時代)のイギリス・フランス合作作品で、監督はフレッド・ジンネマン(「オデッサ・ファイル」の評で、こちらもジョン・ウルフ、と書いたが、間違いであった)、主演の「ジャッカル」をエドワード・フォックス、彼を追うフランス警察のルベル警視をマイケル・ロンズデールという俳優が演じている。
「オデッサ・ファイル」評の繰り返しになるが、フォーサイスの小説は、私は、20世紀の終わり頃に、「イコン」を邦訳で読んだ他は、シンガポールに移った2008年以降、「The Fist of God」、「The Afgan」、「The Veteran」、「The Deceiver」、「Avenger」、「The Cobra」、「The Kill List」等をペーパーバックで間欠的に読んできた。ル・カレに比較すると読み易い英語で、それなりに楽しんできたが、この「ジャッカルの日」や「オデッサ・ファイル」を含め、彼の初期の作品群は読んでおらず、また彼の原作の映画も、今回の作品が、「オデッサ・ファイル」に続く2作目の経験であった。一方、この作品は、当時余りに評判になったことと、確かTVで放映されたのを観た記憶がある。ただ今回見直して、改めて半世紀前制作とは思えないこの映画を楽しむことになった。
時は1962年のフランス。時のド・ゴール大統領が、アルジェリアでの独立運動に手を焼いて、この国の独立を認めることを決定したことに反発する右翼・軍人たちからの批判が高まっている。彼らは何度かド・ゴール暗殺を試みるが失敗、主犯は処刑され、反ド・ゴール運動の中心組織OASにも政府からの圧力が強まっている。こうした中で、OASは、警備当局に知られていない暗殺のプロを雇い、50万ドルという法外な値段で、彼にド・ゴール暗殺を依頼するのである。
こうして、雇われた殺し屋、コード名「ジャッカル」と、その暗殺を阻止しようとするフランス警備当局の熾烈な戦いが描かれていくことになる。ジャッカルへの前金25万ドル調達のため、銀行強盗を行うOAS。それを契機に、何らかの計画が進行していることに気づく当局は、イタリアに潜伏するOASの一員を拉致し、拷問を含む取り調べの結果、「ジャッカル」によるド・ゴール暗殺計画が進んでいることを知り、英国その他諸外国の警備当局と連絡を取りながら、この計画の阻止に動き始める。フランスで、これを担当することになるのがルベル警視で、彼は相棒一人と特別の捜査本部を立ち上げることになる。他方、OASは、ジャッカルを支援するため、組織の女を、フランス閣僚の一人に接近させ、愛人となることで、寝物語での捜査に関わる情報収集を始めている。
パリは凱旋門近くをうろつき、暗殺実行場所を選んだ後、フランス国外に出て、偽造パスポート/身分証明書3通や特殊な銃、あるいは変装用の髪の毛の染料の調達など、暗殺計画実行の準備を進めるジャッカル。パスポート/身分証明書は、2歳で死んだ英国人、デンマーク人教師(空港で盗んだ物)、そしてもう一通。それが何者であるかは、偽造者との会話では明らかにされず、偽造者は、「それが一番作成が難しかった」とコメントするが、それがどのような人物の身分証であったかは、物語の最後で分かることになる。
パスポートの偽造者は、その作成に使ったオリジナルの身分証明書をジャッカルに高値で買い取らせようと試み、彼に殺されている。そして新たに調達した銃を使い、街で買ったスイカを使って試し打ち、照準調整を行うジャッカル。アルファロメオのスポーツカーで、イタリアからフランスに入国する時は、その銃は、分解され、車の下に隠されることになる。しかし、その頃、英国警察の捜査で、彼が入国に使ったパスポートの英国人の偽名は、フランス当局にも知らされる。彼らは、その名前で、あらゆるホテルの宿泊名簿をあたっている。他方、それを使ってニース近郊グラースの街(かつて私も、ロンドン時代に何度か訪れた観光地である!)にある高級ホテルに宿泊したジャッカルは、そこで接近したフランス人の富豪の女に接近し、一夜を過ごすが、すんでのところで、捜査当局の突入前に、そこをチェックアウトしている。その後、ホテルで内緒に入手した女のアドレスを使い、その女の邸宅を訪れるが、そこで、女から警察の事情聴取があったことを告げられたことから、自分が追跡されていることを知り、女を殺し、再び逃亡に入る。もはや英国人名のパスポートでホテルに泊まることはできないので、髪を染め、今度はデンマーク人教師に成りすますことになる。
女の家から盗んだ車で、近隣の鉄道駅まで移動し、そこからパリ行きの列車に乗るジャッカル。その間ルベル警視は、既にジャッカルが、英国人パスポートの使用をやめていることに気づき、改めて盗難パスポートの届け出からジャッカルがデンマーク人に変装したことを突き止め、彼が列車に乗りパリに向かったことを知る。パリの鉄道駅に急行するルベル。しかし、ここでもジャッカルは、すんでのところで捜査をすり抜け、パスポート不要のパリのサウナに直行、そしてそこで知り合った独り者の男の家に潜伏する。しかし、その間に女の邸宅で彼女の死体が発見され、ジャッカルは殺人犯として、デンマーク人の氏名・写真入りでテレビ等で指名手配されている。潜伏する男の家でそれを知らされたジャッカルは、彼も殺害し、最後の準備にとりかかるのである。同じ頃、ルベルが閣僚全員に仕掛けた自宅電話の盗聴で、閣僚の一人の部屋から、当局の捜査状況を伝える女の電話が公開され、その閣僚は辞任の上、自殺。女も逮捕されている。
ルベルは、ド・ゴール暗殺の実行は、8月の戦勝記念日の凱旋門でのパレードで行われるであろうとを確信している。それを延期することは何度も提案されたが、ド・ゴールにより拒否されている。そして当日、盛大なパレードが準備される中、一人の戦傷を負い片足になった老人が、警備地区に接近し、警備員に自宅に帰るとして身分証を提示する。それが3つ目の偽造証明書であった。それを使い、祝典を見下ろせるアパートに潜入し、そこの最上階で、銃を設置し、ド・ゴールの登場を待つのである。そしてそこでジャッカルとルベンの最後の闘いが繰り広げられることになる。
この話の本筋は、昔に話題になった頃から既によく知られており、それが、当時大学生であった私にとっては、あえてそんな本を読む必要はない、感じさせた最大の要因であったように記憶している。そしてそうした気持ちから、フォーサイスの初期の作品はほとんで読まずに20世紀を終えることなった。しかし、今こうして、やはり半世紀以上前のこの映画を観ると、やはりジャッカルとルベンの闘いも細部、特にルベンの徹底的な捜査と、ジャッカルがすんでのところでそれを逃れていく様子を、手に汗握る緊張感をもって楽しむことが出来る。また戦勝記念日の祝典の映像も、本物を使ったのではないかと思わせる程大規模な撮影である。映画好きの友人が言っていたように、確かにこうした点で、こちらの方が前に観た「オデッサ・ファイル」よりも数段上である。おそらく原作もそうした細部故に、フォーサイスのこの分野での名声確立に貢献したのであろう。既に5月の連休時期に突入し、プールやテニスの予定が減る中、フォーサイス原作の他の映画を観ながら暇な時間を潰そうという気分にさせてくれたのである。
鑑賞日:2022年4月30日