戦争の犬たち
監督:ジョン・アーヴィン
フォーサイス原作映画の第三弾は、やはり彼の初期の著作の映画化である「戦争の犬たち」。1980年制作のアメリカ映画で、監督はジョン・アーヴィン。これも私は原作は読んでおらず、当時何となくコンゴ辺りの内戦での傭兵戦争を描いたと聞いていたが、実際の映画を観てみると、少し雰囲気は違っている。またネットによると、映画は原作から大きく変わっているということである。今更この原作を読むつもりはないので、ここでは単純に映画だけを見ていくことにしよう。
冒頭、1980年の中央アメリカとされる場所での激しい戦火の中、一群の兵士が輸送機で脱出する場面から映画が始まる。そして米国に帰国したその中の一人シャノン(クリストファー・ウォーケン)が、そこで戦死した友人の息子の名付け親となっているが、その母親からは、「二度と自分の前には現れてくれるな」と通告されている。恐らく、その父親は、彼に誘われ戦地に赴き戦死したということなのであろう。
そのシャノンに、西アフリカのザンガーロという国と、そこでの独裁者キンバ大統領の政権安定度を調査して欲しいとの依頼が入る。ある鉱山会社がその国に投資するにあたっての事前調査という名目である。1万ドルでそれを引受けたシャノンは、鳥類学者キーズ・ブラウンという偽名で、この国に入国する。現地人が運転するジープでジャングル内を回ったりしながら、街の様子を探るシャノン。ホテルでは、映画撮影のため現地を訪れている英国人ノースから、キンバは独立時に二人の別の候補を退けて大統領となり、独裁政権を打ち立てたといった話を聞いている。またガブリエーラという美しい現地女性の案内で市内を回っているが、ノースから、彼女はキンバの女の一人だ、と教えられている。
そのシャノンは、現地軍部のリーダーに捕らえられ、拷問の上、尋問されることになる。ガブリエーラを撮影するとして兵営を撮影したことを咎められたのである。拷問で、全身傷だらけになり、彼はその国から強制追放されるが、独房で傷ついた彼を治療してくれたのが、大統領候補としてキンバの対抗馬であった医者で、やはりそこで拘束されていたオコーヤであった。
帰国した彼に、今度はキンバ政権を軍事力で打倒する話が持ち込まれる。一旦は拒絶したシャノンであるが、別れた妻との復縁が叶わなかったこともあり、10万ドルの報酬でその話に乗る。昔の戦友に声をかけ、武器調達を進めると共に、キンバにより追放されたもう一人のライバルであるボビー将軍と会い、彼の協力を依頼するが、その男は不遜な態度でシャノンを扱うことから、彼はその男と彼の取り巻き軍人の支援は辞退することになる。またロンドンで再会したノースが、彼の行動を追っているのを知り、シャノンは穏健に遠ざけようとするが、ノースは別の筋に殺害されることになる(この「別の筋」がどのような関係であるかは、よく理解できていない)。
そして集めた武器を、税関検査をすり抜け船積みし、出航。船上で、亡命した現地人からなる部隊に武器の訓練を行っている。そして暗い闇夜にザンガーロの港に上陸したシャノンの傭兵部隊はキンバの官邸を急襲、激しい戦闘の後、キンバを殺し政権転覆に成功するのである。戦闘の最中には、大統領府の一室にいたガブリエーラと再会するが、彼女には手を付けることはない。戦闘終了後、新たな大統領としてそこを訪れたボビー将軍は、オコーヤが大統領として着席していることを知る。「俺が大統領だ」というボビー将軍を、シャノンは射殺して官邸を後にすることになる。
シャノンという傭兵隊長の眼を通した、アフリカの小国のクーデター物語り、ということであるが、映画はやや図式的で、アメリカ等大国の支援もなく、いとも簡単に傭兵によるクーデターが成功してしまうのは、やや非現実的である。もちろんそこに至る紆余曲折を見せるのが監督の腕であり、それにノース、ガブリエーラ、ボビーといった人物とシャノンとの複雑な感情が入り混じった関係を挿入しており、それなりに盛り上げようという意欲は見られる。しかし、武器調達やその積み込み・出航に際しての当局検査のすり抜け等は、あまりに簡単で、「ジャッカル」のような手に汗握るという感じではない。そして終盤、延々と続く戦闘場面もやや退屈である。また拷問を受けたシャノンのメークアップも凄まじかったが、それが短時間で治癒してしまうのも映画だからからか。
それでも、アフリカの街やジャングルの様子など、印象的な映像は、それなりに楽しめる。ノースという「映画監督」を登場させたのも、この映画の制作とひっかけた監督の仕掛けの一つであったのだろう。冒頭に述べたとおり、今更原作を読むつもりはないが、それでも、それぞれの場面は原作ではどのように描かれていたのだろうか、そこではもう少し上記の不満が、それなりに説明されているのではないか、という関心は抱くことになった。
鑑賞日:2022年5月4日