アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
映画日誌
その他
トップガン・マーヴェリック
監督:ジョセフ・コジンスキー 
 36年ぶりの続編ということである。ただ私自身は、トム・クルーズの出世作であった1986年公開のこの映画は、ロンドン滞在中ということに加え、当時余りにも話題になったことや、戦闘機パイロットの訓練や空中戦を描いたものということで、その後もきちんと観る機会はなかった。今回もこの続編が劇場公開されていることはほとんど知らなかったくらいである。

 それが変わったのは友人からのこの作品についての一通のメッセージであった。それによると、この作品では、トム・クルーズが着用するジャケットに中華民国国旗が、第一作と同様にあしらわれているということであった。そのネット記事によると、「このジャケットは実在する米軍戦艦の極東遠征を記念したもので、航海時に台湾や日本に寄港したことから、中華民国や日本などの国旗をあしらったパッチが背中部分に縫い付けられていた」が、「2019年に続編の予告編が公開された際、ジャケットから中華民国と日本の国旗が消え、別のデザインに差し替えられていたことで、中国に配慮したのではないかとの憶測がインターネットで飛び交い」、当時のポンペオ国務長官が「中国の検閲を受入れないよう米映画界に呼びかける」というおまけまでついたという。そして今回、それが復活し、台湾メディアへの試写会では、中華民国国旗があしらわれているのが確認できるシーンが映し出されると、客席から大きな拍手が沸き起こったということである。この話を聞き、いてもたってもいられず、久々に映画館に足を運び、ジョセフ・コジンスキー監督によるこの映画を観ることになった。

 話は、「伝説の戦闘機パイロット」ピート・マーヴェリック・ミッチエル(トム・クルーズ)が、マッハ10を目指すプロジェクトで、上官の中止命令を無視してそれを実現するが、それ以上のスピードを出したことで、最新機の機体が損傷する場面から始まる。それだけの事故にあったにもかかわらず、ミッチェルが田舎のレストランに、少しやつれた程度の風貌で現れ、水を求める、というのにまずは「何だよ」という感じにさせられる。

 そしてそれを咎められながらも、ある国の原子炉開発を阻止するための爆撃プロジェクトのため「トップガン」に呼び戻されるミッチェル。しかし、今回はパイロットとしてではなく、それを遂行するために選別されたチームの教官としてである。その若手チームには、ミッチェルのかつての同僚で、彼との訓練中に死んだ同僚の息子ルースターもいる。彼は、ミッチェルが、自分が初めて戦闘機パイロットに志願した際、その書類を処分して、入隊が遅れたことで、ミッチェルに敵意を抱いている。その経緯は、ミッチェルにより後半部で語られることになるのだが・・。

 谷底に潜む原子炉。周辺は対空ミサイルと最新鋭の航空機部隊に守られている。他方、地形を考えるとアメリカ側は古いタイプの戦闘機で対応せざるを得ない。それを念頭に置いた訓練が繰り広げられるが、様々な過程を経て、結局はミッチェルが攻撃自体のリーダーとなる。そして、目標の破壊には成功するが、ミッチェルは、ルースターを守ろうとして被弾し、雪の平原にパラシュート降下。彼を狙う敵のヘリをルースターが破壊するが、そのルースターも被弾し、二人は雪原で合流することになる。そして最後は、二人の敵地からの奇跡的帰還で締めくくられることになる。

 おそらく前作もそうなのであろうが、映像の大部分は、訓練や実戦での戦闘機の空中での動きである。観客は、あたかも自分がその戦闘機に乗り、マッハに近い速度で滑降しているかのような浮遊感を感じることになる。また急上昇で、圧力からパイロットが失神し、墜落の危機に瀕したのを、無線での非常通報で意識を回復させ、すんでのところで救う、といった実際に起こり得る事態なども挿入されている。またルースターのミッチェルに対する敵意が、戦闘と脱出の過程で氷解していくというのも、それなりに感動を与えてくれる。そしてミッチェルに絡むシングルマザーのペニー(ジェニファー・コネリー)や、チームの紅一点フェニックス(モニカ・バルバロ)等が、男臭い世界に花を添えることになる。

 ただやはり映画は、敵の核施設の攻撃成功やら、その後の空中戦、そして最後の奇跡的帰還など、「勧善懲悪」、「ハッピー・エンド」色が色濃く出ていることから、やはりこれは「エンターテイメント」大作以上の何物でもないことは感じざるを得ない。

 そして冒頭に触れた、彼のジャケットにあしらわれた中華民国(と日本)国旗。それなりに注意していたつもりであったが、私は目撃できないまま、映画が終わってしまった。これを薦めてくれた友人からは、「(それを確認するため)もう一回観るべき」と言われているが、流石にその気にはならないというのが正直なところである。

鑑賞日:2022年5月31日