ザ・シークレット・サービス
監督:ヴォルフガンク・ペーターセン
クリント・イーストウッド・シリーズの第6弾は、制作は1993年と、この前に観た「許されざる者」の翌年ということであるが、前作の西部劇に対して、これは現代の米国大統領警護官の話である。監督はイーストウッドではなく、ヴォルフガンク・ペーターセン。前作では、19世紀末を舞台に、立ち直ったが貧乏暮らしをしている元極悪非道の男を演じたクリント・イーストウッドは、この映画では、退職を間近に控えた大統領警護官を演じているが、制作年代を考えるとほとんど並行して双方の撮影をしていたのではないかと想像する。本作も、映画の中身自体には突っ込みどころが多いが、そうした別種の作品を同時期に監督や主演で制作するという彼の器用さには驚かされる。
冒頭、クリント・イーストウッド演じる捜査官フランク・ホリガンが、若い相棒と、偽札の取り締まりでヤクザの保有する船に乗り込み、犯人たちを射殺・逮捕している。続いて彼は、ある家主の女性から怪しいテナントがいると通報を受け、そこに押し入り、大統領の暗殺事件に関する切り抜きなどが壁一面に張られていることを知る。しかし、二度目に家宅捜索に入った時には、彼はいなくなり、そこには、彼がケネディ暗殺時に、警護官として映されている写真だけが残されていた。そしてその男からフランクに電話が入る。こうして高齢で引退時期を迎える彼は、男が計画している現在の大統領暗殺計画を阻止できるかどうか、という挑発を受けるのである。実は、フランクは、かつては大統領警護官であった。しかし、若かった彼は、J.F.ケネディの警護をしながら、第一発目の銃弾の音に驚き、大統領の前に身を晒すこともしないままケネディの暗殺を許してしまい、その後、その悔恨を抱えながら生きている。ケネディ暗殺後は、それを防げなかった警護官としてメディアにも取り上げられ、妻や娘にも逃げられてしまったということになっている。彼は直感的に、ブースが危険な存在であるとして周囲を説得、警護官としては高齢という批判を受けながらも、その仕事に戻ることになるのである。そして以降は、そのブースと呼ばれることになる男(ジョン・マルコビッチという性格俳優が演じている。ブースというのは、リンカーンを暗殺した男の名前である)の暗殺計画と、それを阻止しようとするフランクの闘いが展開していくことになる。
そのブース(ミッチ・リアリー)は、元々CIAの暗殺要員(ウェット・ボーイ)であったが、組織に幻滅し、その報復で大統領暗殺を企てていることが次第に明らかになっていく。CIAでの経験から、捜査当局の電話逆探知等の手法にも通暁しているということになっていたり、初期の捜査で彼の指紋も検出されたが、CIAはそれを握り潰していたのである。ブースは、選挙運動中の大統領に接近するため、架空の会社の銀行口座を作り、そこから多額の献金小切手を送っているが、それを担当した銀行窓口の担当女性は、その後ルームメイトと共に彼に絞殺されることになる。ただこの殺人の動機と、何故これが映画の展開になっているのかはあまり理解できない。
選挙を控え大統領の集会が続く中、シカゴでの集会では、ブースが風船を破裂させ、フランクが大騒ぎするが、大統領に恥をかかせた、ということで、フランクは厳しく叱責される。また、その間、ブースの部屋と思われる家に踏み込んだフランクらは、そこにいた男たちと乱闘になるが、それは身内であるブースの捜査をしていたCIAの捜査官であった。そしてそのブースは、手製のプラスチック拳銃を作り、湖畔で試し打ちをしているが、そこに現れた狩猟家の男二人をそれで射殺している。これも何故挿入されているかは理解できない設定であった。また、新たなブースからの挑発電話の逆探知で発見したブースとのビル屋上での追跡で、ビルから落ちかけたフランクは、ブースに救われるが、相棒はブースに射殺される。これも、単純な街中の追跡劇で、二人だけでブースを追跡し、取り逃がすというのは、現実の捜査ではほとんど考え難い。
そして最後のロスアンジェルスでの大統領集会での大団円。ブースが、大口献金者として変装してパーティーに現れている。警備にあたるフランクは、ベルボーイ一人を被疑者として取り押さえるが、彼は無関係で、フランクはその場で警護を解かれることになる。しかし、そこから空港に向かう途中で、献金者を装ったブースのトリックに気が付き引き返す。そしてパーティ会場にプラスチック拳銃を持ち込んだブースが大統領に向かって放った順弾を、身体を張って守り、そしてブースとの最後の闘いを繰り広げるのである。明かりの消されたホテルの高層エレベーターに閉じ込められた二人は、フランクが警察無線を巧みに使って狙撃兵に発砲を指示。その後の闘いで、ブースはエレベータから転落し、二人の闘いが終わる。そしてフランクは、大統領を身体を張って守った英雄となり、また警備の過程で同僚としてじっこんになった女性捜査官リリー(レネ・ルッソ。いかにも大作りなアメリカ女といった風貌の女優で、個人的にはあまり魅力的ではない)と結ばれることになるのである。
ということで、突っ込みどころの多い映画で、終わりもハッピー・エンドの単純なエンターテイメント作品といったところである。最後に、フランクが、ブースの部屋に残された銀行関係のメモで、彼のトリックに気が付く理由がはっきりと理解できない等、話の展開には、十分ついていけないところも残っているが、前作を含めた彼の多くの作品で見られる「過去の影を抱えたアクション俳優」としての雰囲気は醸し出している。このあたりが、彼が長らくこの業界で活躍してきた理由であろう。とは言いつつも、そろそろそうした「ワン・パターン」のイーストウッド映画にも飽きてきたので、以降は少し雰囲気を変えてみたいと考えている。
鑑賞日:2022年6月23日