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ミスティック・リバー
監督:クリント・イーストウッド 
 そしてまた続けてクリント・イーストウッド・シリーズの第8弾である。今回は、別の香港映画を探してレンタル・ショップに行ったが、在庫がなかったことから取寄せの注文を行い、それが来るまでの繋ぎとしてメモっていたこのイーストウッド作品を借りて観ることになった。

 2004年劇場公開のこの映画は、また今まで観たイーストウッド監督作品とは全く違うミステリー仕立てとなっている。ネット解説によると、主演の幼なじみ3人をショーン・ペン、ケビン・ベーコン、ティム・ロビンスが演じ、2004年・第76回アカデミー賞ではペンが主演男優賞、ロビンスが助演男優賞をそれぞれ受賞したという。

 ボストン郊外の小さな町で、11歳の男の子3人が、通りでホッケー遊びをしている。そこで悪戯心から、工事中の乾いていないコンクリートに3人の名前を刻むが、通りかかった男二人に、それを咎められ、3人の内デイブが彼らに車で連れ去られる。その後デイブは男たちに4日監禁され、性的暴行を受けたとされる。大人となったデイブ(ティム・ロビンス)はその記憶を消し去ることができないまま25年が過ぎ、現在は妻と幼い息子の3人で暮らしている。

 一方、ジミー(ショーン・ペン)は、その後強盗グループに加わり、監獄にも一時収監されるが、現在は足を洗い、雑貨店を経営しながら、早世した前妻の娘、19歳のケイティや後妻であるアナベスと彼女との小さな子供と平和に暮らしている。そしてショーン(ケビン・ベーコン)は、街の警察官となっている。

 成人後はやや疎遠であったとされる3人の関係は、ある日、ジミーの娘ケイティーが死体となって見つかったことで、再び濃密になる。ケイティーが殺された夜、デイブは酒場で、ケイティー達若い娘3人が、バー・カウンターの上で無邪気に踊るところを、目撃していた。またその晩、デイブは、明け方、手に大怪我をして帰宅するが、それは、帰宅時に車の中で襲われそうになった少年を助けるために、男と乱闘になった結果だと、妻のセレステに説明している。そしてショーンは、その殺人事件の捜査を担当することとなり、ジミーや、デイブへの事情聴取を行うことになるのである。ケイティーは、レイという男の息子ブレンダンと恋人同士であったが、そのブレンダンをジミーは嫌っており、ケイティーは、近々彼とラスベガスに駆け落ちする計画を練っていたとされる。ブレンダンの父親のレイは、かつてジミーが加わっていた強盗団の仲間で、彼の身代わりでジミーが投獄されたことから、ジミーは二人の関係をよく思っていなかったのである。レイはその後姿をくらましている。当然、ブレンダンも警察の尋問を受けるが、彼はシロであるということになる。

 こうしてショーンら警察による真犯人の捜査が続くが、ジミーは、自ら犯人を見つけ出し、殺すことを心に誓っている。そんな中、デイブの妻のセレステがジミーの元を訪れ、事件の晩、デイブは手に大怪我をして深夜帰宅、それ以来デイブの様子がおかしいので、もう別れたいと告げる。それを聞いたジミーは、デイブがケイティー殺しの犯人と思い込み、仲間のゴロツキ二人を使い、デイブを問い詰め、そして殺すことになる。しかし、その時、ショーンらは、ケイティーが打たれた銃弾が、かつてブレンダンの父親レイが酒場への強盗時に使ったものと同じであることに気づき、そしてブレンダンの元を訪れると、彼は若い弟とその友人に銃を突き付けられていた。ケイティー殺しの犯人は、その若いブレンダンの弟たちであったのである。格闘の上、二人を取り押さえたショーンは、ジミーに、犯人逮捕の報告をする。しかし、ジミーは、放心状態のまま「遅すぎた」と呟く。そして街の記念日のパレードで、デイブの息子が野球チームの一員としてパレードに参加するのを、ジミーやショーンは道端から眺めるところで映画が終わることになる。

 若い女性の殺人事件捜査が主たるテーマであるが、それに3人の幼馴染の男と、その家族の人間関係が絡むので、その関係の理解に結構手間取ることになる。そして、幼い頃の性的虐待を引きずるデイブの精神状態がおかしくなったことで、ジミーが彼を殺人犯と誤解して殺してしまうが、真犯人は別にいた、という落ちである。ただ、その晩のデイブの怪我の原因であった性倒錯者の事件が最後まで明るみに出なかったり、娘の恋人の若い兄弟が真犯人である理由―それは銃で偶々脅したら暴発してしまったということの様であるーがあまり説得力がないことから、ジミーによるデイブの殺人が、何でそこまでいくのか、という疑問になってしまう。誰が犯人かを推測していくのが、この作品の醍醐味であるが、結果はややがっかり、という感じである。そしてデイブを殺したジミーの逮捕までは描かれていないのも、やや中途半端である。ただイーストウッドが、こうした犯罪物ミステリーまでも監督しているということで、改めて彼の幅広い才能を認識することになった。マカロニ・ウエスタンに始まり、西部劇やアクション物、そして爆弾事件から航空機事故や戦争でのヒーロー物等に加え、こうした作品まで制作していたというのは、まさに驚きであった。

鑑賞日:2022年7月5日