アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
映画日誌
その他
ボーダーライン
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 
 友人から推奨を受けた、久々のアメリカ映画で、制作は2015年、監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ、主演はエミリー・ブラントという女優が演じている。

 冒頭、FBIの誘拐即応班の女性リーダーであるケイト・メイサー(エミリー・ブラント)率いる武装チームが、ある誘拐犯のアジトに突入し容疑者を逮捕するが、その家の壁には大量の腐食した死体が埋められており、ケイトらが嗚咽を漏らす場面が映される。そして爆発が起こり、警官2名が犠牲となる。そのアジトは、麻薬犯罪組織の拠点でもあったようで、多くの死体は麻薬カルテル間の抗争の犠牲者の様である。その延長で、ケイトは、相棒の黒人レジー(ダニエル・カルーヤ)と共に、メキシコの麻薬カルテル撲滅のための特殊プロジェクトに参加することを指示される。そして二人は、特別捜査官マット(ジョシュ・ブローリン)の指揮もとで極秘任務に就くが、そこには謎めいたメキシコ人アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)がいた。彼はCIAの所属で、今までコロンビア等で活動してきたようである。

 こうして彼らの作戦が始まるが、メキシコとの国境を越えて、アレハンドロが「野獣の町」と称するファレスという、死体が高速道路から吊り下げられているような街に進軍したり、メキシコからの逃亡者を尋問して、カルテルの動きを探る様子などが描かれるが、作戦の詳細は、観ている者にはよく分からず、そしてケイト自身も、マットらが何をしようとしているのかが分からない設定になっている。

 その内、どうも作戦は、カルテルのボスを誘い出し殺害することだと分かってくる。カルテルの金の運び屋である女の逮捕で「失態」をしでかしたケイトに対するマットからの非難、それを癒そうとバーで知り合った警官と良い仲になろうとすると、彼がカルテルに関わっていることが分かり、殺されそうになるが、それは警官の正体を暴くアレハンドロらの作戦であったことが分かる。そして警官の自供などからボスの所在を確認し、国境に掘られた地下トンネルの攻防(そこでもケイトは、「見てはいけない場面」を見てしまい、マットに非難される)を経て、アレハンドロは、ボスの豪邸に押し入り、家族もろとも射殺するのである。その過程で、アレハンドロは、元々は麻薬シンジケートのメンバーで、対抗する組織に妻と子供を殺されたことから、その復讐をしていたことが明らかになる。ケイトはこうしたCIAによる「法規を逸脱した捜査」を告発しようとするが、それもアレハンドロの脅迫により阻止される。最後ケイトはアレハンドロに銃を向けるが撃つことはできないのである。

 米国・メキシコ国境で繰り広げられる凄惨な麻薬犯罪と、それに対する法を逸脱した当局による捜査の実態を描いた作品のようである。その意図は理解できるが、映画としての展開の細部は今一つ理解が難しく、「楽しむ」作品ではない。映画では、CIAは、米国内では活動できないので、こうした無法捜査のためにFBIのケイトらが利用され、ケイトはそれに抗うということになっているようであるが、ケイトがどのように利用されているか、いつもの様に2回観たが、必ずしも十分理解できたとも言えない。その意味では、やや残尿感が残った作品であった。

 「ボーダーライン」というタイトルは、米国とメキシコの国境という意味と、犯罪すれすれの捜査という二重の意味を持っているようである。そしてこの作品の続編として「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」という作品もある。こちらもレンタル店に在庫があるようなので、余り気は進まないが、観ておくことにしよう。

鑑賞日:2023年2月4日