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ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ
監督:ステファノ・ソッリマ 
 続いて、直前に観た「ボーダーライン」の続編である。公開は2018年のアメリカ映画であるが、前作とは異なるステファノ・ソッリマが監督を務めているが、映画通の友人に言わせると、これは第一作が当たった時に、それに便乗して制作される「スピンオフ企画」というもので、よくあるパターンだということである。他方、主演は前作で出演していたエミリー・ブラントという女優は登場せず、代わりに前作でも重要な役割を果たしていたCIA特別捜査官のマット(ジョシュ・ブローリン)と、彼の指令で動く汚れ役のアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)、なかんずく後者を中心に描かれることになる。

 映画は、米国―メキシコ国境を越える不法移民たちと、それを取り締まる米国国境警備隊の捜査、そしてカンサス州のスーパーマッケットで15人の犠牲者を出した爆弾テロから始まる。そしてソマリアでのタンカー襲撃犯の拷問からテロリストが船で米国に密航しており、その費用がメキシコの麻薬シンジケートから出ているという証言が得らる。それらを受けて、米国の司法省は、爆弾テロへの報復も兼ねて、メキシコの麻薬カルテルの大物を目標とする作戦を開始する。指示を受けたCIA特別捜査官のマットは、カルテル同士の内紛を仕組む作戦を考案し、コロンビアはボゴダで活動していたアレハンドロを、その作戦に参加させることになる。そしてアルハンドロは、カルテルの弁護士を、対抗組織の仕業に見せかけメキシコシティの通りで白昼殺した後、カルテルの親玉レイエスの娘イザベラを、これも対抗組織が行ったかのように拉致・誘拐することになる。またその頃、国境のアメリカ側では、高校生くらいの若い少年が、国境の川の両側に熟知しているということで、密航組織に金を見せられリクルートされている。

 カンサスの空軍基地を経て、米国内の隠れ家に連れてこられたイザベラが、今度は米国の警察が麻薬組織から救出したかのような偽装を行った上で、イザベラをメキシコに戻し、レイエスを誘き出す作戦に移る。しかし、メキシコ国境を越えたところで、CIAの車列が、(カルテルの息のかかった?)メキシコ警察の襲撃を受け、CIAは20名以上のメキシコの警察官を殺害。そしてその混乱の中で、イザベラが逃げ出したことから、アルハンドロが一人で捜索に向かい保護するが、荒野の中で二人だけで彷徨うことになる。これから映画は思いがけない展開をすることになり、まずアルハンドロとイザベラが気持ちを共有するようになると共に、マットに対しては、メキシコ警官を多数殺したこと、そしてカンザスでの爆弾テロが米国の犯人により実行されたことが判明したため、カルテルを巻き込む今回の作戦は中止し、アルハンドロと娘は始末しろ、という指令が下るのである。そうした中、アルハンドロはイザベラを米国に連れ戻すことを決意し、二人で密航者の群れに紛れ込む。しかし、密航業者にイザベラの正体がばれ、アルハンドロは、夜の荒野で、「暗殺者になれ」と命令されたカンザスの少年に射殺される。それを知ったマットは「一人手間が省けた」と呟き、ヘリでイザベラが乗る密航者の車を襲い、イザベラを確保する。ヘリにイザベラを乗せるマットに対し、部下が「命令に背くのか?」と告げるが、彼は「証人確保だ」と言って彼女を連れて米国に向かうのである。他方、射殺されたと思われたアルハンドロは生きていた。断末魔あら回復した彼は、マットらに襲われた密航業者の車で立ち去ることになる。そして一年後。ショッピングセンターにある密航業者の部屋を訪れた少年は、そこに自分が撃ったアルハンドロがいるのにたじろぐことになる。アルハンドロは、青年に、「暗殺者になりたいか?将来について語ろう」と告げるところで映画が終わる。

 前作の「スピンオフ企画」とは言え、今回の続編は、米国―メキシコ国境での「超法規的捜査」の実態を赤裸々に示したのみならず、それに関わる「非情な」捜査官に「人間的感情」があることを描いた点で、やや新鮮味と、そしてある種の安堵を感じさせることになった。ただ、「命令に背き」イザベラを保護したマットとイザベラのその後や、至近距離で撃たれたアルハンドロが何故生き延びることができたのかといった疑問は残尿感として残ることになった。それが、アルハンドロが少年に言った「暗殺者になりたいか?」という最後のセリフと共に、「またこの作品の続編を予想させる」という別の友人の感想にも繋がっていると思われる。次の作品が出てきた時には、やはり観ることになるのだろうと感じている。

鑑賞日:2023年2月6日