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コラテラル
監督:マイケル・マン 
 「コラテラル」という英語は、金融業務に関わって来たものにとっては直ぐに「担保」という意味で理解することになる。このアメリカ映画のタイトルを見た時に、何が担保されるのかな、という興味があったが、それは実は「巻き添え」という意味で使われていることが映画の中で語られることになった。2004年公開のアメリカ映画で、主演の殺し屋ヴィンセントをトム・クルーズ、彼の殺しに「巻き込まれる」タクシー運転手マックスをジェレミー・フォックス、そして最後にヴィンセントに狙われる女検事アニーをジェイダ・ピンケット=スミスといった俳優が演じている。監督は、マイケル・マンであるが、私は初めて聞く名前である。

 映画は、ロスアンジェルスの街中で、女検事アニーを客として乗せたマックスが、彼女と親しげに会話をし、降車時に彼女の名刺を受け取るところから始まる。その直後に、今度は男が乗車し、ある場所への移動を指示する。移動時間の予測通りマックスがそこに男を送り届け、アパートの下で待っていると、突然別の男がタクシーの屋根に落下してくる。その男は、麻薬密売組織のチンピラで、タクシーに乗せた男に殺されたようである。その男は、トム・クルーズ扮する殺し屋ヴィンセントで、その後マックスは、男の死体をトランクに入れたまま、ヴィンセントの脅しに屈し、彼を第二、第三の殺人の現場に送り届けることになる。まさにマックスは、ヴィンセントによる殺人の「巻き添え」となっていくのである。その頃、捜査当局は、連続殺人の被害者が同じ殺され方をしていることから、同一犯の犯行と考え捜査を開始している。

 そのマックスが、恐怖からヴィンセントの殺しの情報が入った鞄を奪い、高速道路に投げ捨てたことから、マックスは、彼を改めて脅し、殺しの依頼主の下に送り、残り二人の殺しのターゲット情報を受け取るが、この犯罪を追いかけるFBIと州警察は、その際の監視情報から、マックスがこの連続殺人の犯人だと思い追跡することになる。そしてナイトクラブでの襲撃では、マックスを追いかける捜査陣の隙をつき、ヴィンセントは第四の殺人を実行するのである。

 こうしてヴィンセントは、マックスの運転で最後のターゲットの下に向かうが、それはアニーであった。ヴェンセントは、麻薬密売組織の依頼を受け、これに関わる訴訟で、警察の手先の証人となる「タレコミ屋」を始末する仕事を行っていた。そしてその最後のターゲットが、その訴訟を担当する検事のアニーだったのである。それに気がついたマックスは、アニーから貰った名刺の電話に連絡するが、電源不足で十分な警告はできない。こうして映画は、アニーの事務所から地下鉄にかけて行われるヴィンセントと、マックス、アニーの間での逃亡・闘いとなり終末を迎えることになる。

 トム・クルーズが、極悪非情な殺し屋を演じたことで話題になった映画の様である。確かにこの映画に登場するクルーズは、髪形を含め、「トップガン」や「ミッッション・インポッシブル」で演じた英雄型とはやや異なる風貌で登場する。当初は、「あれ、これクルーズなの?」という印象である。そして彼が無表情で次々に暗殺を実行していく場面を見ていると、彼にこんな役をさせないで、という女性ファンの呟きが聴こえてくるようである。

 しかし、この映画の本当の主役は、タクシー運転手マックスを演じたジェレミー・フォックスで、殺し屋の巻き添えとなった彼が、じわじわとヴィンセントの術中にはまり、ある時点では、自分がヴィンセントと称して、暗殺の依頼者と交渉するところまで行くことになる。最後はアニーを守るためヴィンセントと闘うことになるが、その辺りの微妙な心理を演じたところが、この映画の本来的な見所と言えよう。その意味で、この映画でのクルーズは、マックスの「引き立て役」と言えよう。

 この冬最悪の寒波と雪が襲う中、部屋でのお籠りの時間潰しとしては格好の娯楽作品であった。

鑑賞日:2023年2月10日