ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書
監督:S. スピルバーグ
またまた暇に任せてのエンターテイメント映画で、店頭で適当に選んだ作品。2017年制作のハリウッド映画で、監督はスピルバーグ、主演はメリル・ストリーブとトム・ハンクスという豪華な顔ぶれである。原題は「The Post」ということで、現在でもこの略称は「ワシントン・ポスト」を指すようである。ネット解説によると、第90回アカデミー賞で作品賞と主演女優賞にノミネートされたとのことである。
1971年のワシントンDC、ベトナム戦争への米国政府の悲観的認識についてのペンタゴンの機密文書の漏洩とそれを巡るNYタイムスとワシントン・ポストによる暴露記事掲載を巡る政府との攻防を描いている。メリル・ストリーブ演じるキャサリン・グラハムは、ワシントン・ポストの社主であるが、父と夫の急死でその立場を引継いでいるだけで、編集等についてはあまり発言力を持っていない。他方編集は、トム・ハンクス演じる「海賊」ベン・ブラッドリーが仕切っているが、彼は、自分の新聞が、大統領の娘の結婚式の記事が一面に載るような「家族経営の田舎新聞」であることに苛立っている。そうした中で、NYタイムスに、漏洩されたベトナム戦争についてのペンタゴン機密文書が掲載されるが、NYタイムスは政府の圧力で、記事の差し止めを求められ応じている。それを聞いたベンは、伝手を辿り同じ文書を手に入れ、NYタイムスができなかった主要部分の掲載を試みるが、偶々時はワシントン・ポストが上場した直後で、万一「非常事態」が発生した場合はその上場が危機に陥るという環境であった。記事の掲載か、スパイ活動防止法等による自身や関係者の逮捕と、それによる上場取り止めか、という厳しい選択の中で悩んだ末キャサリンは、最後は記事掲載を決断することになる。
いかにもアメリカ・ハリウッド的な要素満載という映画である。1966年時点のベトナム戦争(BGMはクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「グリーン・リバー」が流される)やそれに関与したそれぞれの大統領の実写映像、記事を受けての戦争反対デモや社交界活動に忙しいキャサリンが、大統領側近(例えば、キャサリンと個人的にも親しいということになっているマクナマラ国防長官等)と簡単に自宅を訪問するといった上流社会の人間関係、そして繰り広げられる数々の豪華なパーティー。これぞアメリカのメディア界の華やかな姿、とばかりに映される。そして話の展開の中での、法律顧問も交えた激しい議論や最終盤に展開される最高裁評決などのアメリカ的紛争処理システム。そして映画の最後は、新聞の使命と言論の自由及び民主主義の高らかな賛美。現在の「分断されたアメリカ」に至る前の、「世界の民主主義のリーダー」であったアメリカへの郷愁を感じさせる。そして最後に、1972年、ウォーターゲート・ビルに何者かが侵入する場面が映され、その後のこの有名な事件を示唆しているのは、スピルバーグがこれを扱った続編を予告しているということであろうか?
主演のメリル・ストリーブやトム・ハンクスは、流石といった感じの演技である。メリルは、歳を感じさせる風貌ではあるが、それまでは自分の立場の重さを感じながら、社交活動に精を出しているだけであるが、最後の決断は、大いに悩みながらも、決然と指導力を発揮する姿を巧みに演じている。そしてトムは、如何にも精力溢れるアメリカの敏腕な新聞編集長という英雄で、中々格好良い。そして監督のスピルバーグによる、次第に緊張感を盛り上げながら終盤に向けていっきに突き進む展開も見事である。現在の米国メディアが、トランプ時代を経て大きく分断されたこの社会の緊張をどのように報道しているか、改めて確認したいという気持ちにさせられた作品であった。
鑑賞日:2024年2月7日