大統領の陰謀
監督:アラン・J.パクラ
この前に観た「ペンタゴン・ペーパーズ」(2017年制作)の最後に示唆されていた「ウォーターゲート事件」について、それよりも遥か昔の1976年に制作された作品(原題は「All The President’s Men」)で、「ペンタゴン・ペーパーズ」の感想を送った映画通の友人から薦められたものである。「ウォーターゲート事件」を執拗に追いかけて、結局時のニクソン大統領を辞任にまで追い込んだワシントン・ポスト紙の記者、ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインの著作の映画化で、監督はアラン・J.パクラ。ウッドワードとバーンスタインを演じるのは夫々R.レッドフォードとD.ホフマンという有名俳優であるが、監督は初めて聞く名前である。ネット解説によると、「第49回アカデミー賞で作品賞をはじめ計8部門にノミネート。編集主幹ブラッドリーを演じたジェイソン・ロバーズの助演男優賞ほか計4部門を受賞した」とのことである。
1972年6月、米国大統領選挙の最中に、ワシントンDCはウォーターゲート・ビルにある民主党本部(当時は共和党のニクソン大統領時代で、民主党は野党であった)に5人が侵入したが、警備員に発見され、その場で逮捕される。捜査の過程で、民主党本部に盗聴を仕掛けていた彼らは、ニクソン大統領再選員会の関係者であることが判明するが、ニクソン政権及びホワイト・ハウスは関与を否定、更に捜査過程で事件の証人や司法省等に圧力が加えられることになる。その政権による圧力を受けながらワシントン・ポストの記者二人が、執拗な捜査を行い、次第にこの盗聴事件が大統領の犯罪として暴露され、世論の支持もあり、最終的にニクソン大統領の辞任という結末を迎えることになった。その過程を追いかけた映画である。まさに「ペンタゴン・ペーパーズ」で一躍地方紙からのし上がったワシントン・ポスト紙の次なる功績として評価されている事件である。
その意味では、話は前後するということになるが、正直こちらの映画は観ていて余り面白くない。もちろん、D.ホフマン(彼は長髪で、眼付もいかにも記者という鋭さを出しており、彼を一躍スターにした「卒業」での彼のイメージとは大きく異なっている)と若き二枚目のR.レッドフォード、そして彼らの取材を絶えず不十分と指摘しながらも、彼らを鼓舞しリスクを取って取材と記事の掲載を続けさせる編集主幹ブラッドリーを演じ、前述の通り数々の賞を受賞したジェイソン・ロバーズの演技はなかなかではある。しかし「ペンタゴン・ペーパーズ」のような明確な展開がなく、映画では記者二人が、影の密告者である「ディープ・スロート」と接触をしながら、関係者への取材を続け、彼らの証言を引き出していく様子が延々と続くのみである。もちろん、こうした疑惑のある案件について新聞記者が、記事の掲載を前提に関係者と接触し、彼らの感触を引き出していく手法などは、なるほど、と思わせるところもあったが、その程度である。そして最終盤に、捜査がいっきに進展し、逮捕者の名前と逮捕・有罪判決の時期、そして1974年8月9日のニクソンの辞任といった事実がルビで報告されて終わることになるのであるが、これも余りにあっけない結末であった。ということで、話題となった作品ということではあるが、「ペンタゴン・ペーパーズ」と比較してあまり感じるところのない映画であった。
蛇足ではあるが、昨日、地域の友人から、本作を含めて私が旧作映画のほとんどを借りている近所の「ツタヤ」が、来る3月28日をもって閉店という話を聞いた。昨晩飲み会帰りに立ち寄ってみると、確かに店頭にその旨の表示が掲載されていた。ネットでの映画鑑賞が主流となる中、この店も閑古鳥が鳴いていたのは確かである。しかし、私にとってはこの便利な店が閉店するというのはショックで、今後、旧作映画をどのように観ていくかを考えなければならなくなったのである。
鑑賞日:2024年2月14日