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カウント・ミー・イン
監督:マーク・ロー 
 3月も終わりというのに、終日冷たい雨が降り続き、夕方には北風も強まった中、1年振りに映画館まで足を運んで観ることになった。映画通の友人から薦められた2021年製作の英国映画で、ロック・ドラマーたちが、自分のドラムへの愛着やテクニック、そして影響を受けた先輩ドラマーについてコメントするなどした作品である。監督はマーク・ローであるが、もちろん初めて聞く名前である。

 まずは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス、クイーンのロジャー・テイラー、アイアン・メイデンのニコ・マクブレイン、ポリスのスチュワート・コープランド、クラプトン・バンド等で活躍したジム・ケルトナーといった連中が、自分が影響を受けた先輩ドラマーを紹介し、それが自分の技術や経歴に与えた影響を語る。それはジャズ界の大物アート・ブレーキー、マックス・ローチやバディ・リッチに始まり、そしてマージービート全盛時の英国とそこから登場したリンゴ・スターやチャーリー・ワッツ等の映像。中でも多くの連中が敬愛を込めて話すのはザ・フーのキース・ムーン。映画の後半でも改めてその奇行が取り上げられ、結局若くして車でプールに飛び込み死亡した彼については、ディープ・パープルのイアン・ペイスを始め、その後登場する若手を含めドラマー世界での評価は高いようである。ただそのイアン・ペイスも老境を迎え、普通の叔父さんになっているのにはガッカリ。登場した時はエルトン・ジョンかと思ったような風貌であった。同じ叔父さんでも、結構現在の映像も多いピンク・フロイドのニック・メーソンは見慣れた姿で登場している。

 続いて若手のインタビューが続く。カルロス・サンタナ夫人であるシンディー・サンタナは知っていたが、ロイヤル・ブラッドのベン・サッチャー(6歳の彼が初めて両親からドラムセットを贈られた時の映像は印象的であった)、ザ・ダークネスのエミリー・ドーラン・デイビス(女性)、ザ・サマー・セットのジェス・ボーウェン(女性)、モトリー・クルーに迎えられたサマンサ・マロニー(女性)といったあたりになると、所属バンドを含め初めて聞く名前がほとんどである。彼らは、ジンジャー・ベーカー(彼による自分のドラミング解説は、私も持っているクリーム解散コンサートDVDの映像が使われていた)やジョン・ボンナムの影響を語るが、それ以上にパンク・ドラマーに傾倒したようで、クラッシュのニック・“トッパー”・ヒードンやダムドのラット・スキャビーズ等が紹介されている。この辺りはまさに私が英国に滞在した1980年代のパンク・ブームで人気があったバンドであるが、私はこうした動きにはついていけなかったこともあり、余り関心を持つことができなかった連中である。しかし、その頃恐らく10代であった、ここに登場するドラマーたちは、それなりに傾倒していたようである。

 ある時期から登場したドラム・マシーンを使ったアニー・レノックスやヒューマン・リーグの映像。登場するドラマーたちは、やはり人間のプレイが良い、というが、それは私も同様である。そしてサマンサが、モトリー・クルーに参加したライブ等が映された後、映画の途中で登場したドラム・ショップの経営者がセットした3台のドラムで、ベン・サッチャー、シンディ・サンタナ、そしてジェス・ボーウェンがソロの共演を行い、そして自分のドラムに対する愛情とそれが自分の人生を変えたことを語るところで映画が終了することになる。

 かつて学生時代に僅かばかり素人バンドでドラムを叩き、その後ドイツ時代に購入したシンセ・ドラムで遊んでいた私にとっては、他の楽器よりもドラムに対する思い入れが深い。そんなことで、特に登場人物がテクニカルな話をする時には、「プロのドラマーはこうしたところに拘るのだな」と発見する楽しみ方もできた。また英国映画であることから、マージービートやパンクからの影響に多くの時間を割いているのも、それなりに理解はできる。しかし、個人的な好みで言えば、パンクのドラマー等よりも、同じ英国であれば、カール・パーマー、フィル・コリンズ、ビル・ブラッフォードといった、圧倒的なテクニックを誇る「プログレ系」ドラマーが取り上げられていないことへの不満が残ったのであった。

 この映画の上映は、ここでは一日一回だけであるが、館内の観客数は20人程度でガラガラであった。悪天候の平日夕方ということではあったが、観客の少なさはそれだけが理由なのではないのだろう。

鑑賞日:2024年3月26日