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監督:マーティン・スコセッシ 
 何かの機会に観るべき映画としてメモが残っていた2006年制作のアメリカ映画であるが、借りた後でも、何が理由でメモしたのかが思い出せない。そこでネット解説を先に見てしまったが、そこには、これが以前に観た香港映画である「インファナル・アフェア(Infernal Affair)」の版権をハリウッドが買い取り、そこでリメイクされた作品であることが書かれていた。それでも、それはこれを観ようと思った理由は思い出せないままであった。脳の退化は相当進んでいる様であるが、結局そのまま観ることになった。

 そのオリジナルの香港映画は、2002年から2003年にかけて公開された「潜入捜査官」物のシリーズ三作(別掲)で、「警察内部の権力争い、黒社会の内部抗争などをクールに描いて『香港ノアール(ノアールは、フランス語で「黒」や「暗黒」を意味する)』の称号を与えられた」人気シリーズになったという。因みに、題名である「インファナル・アフェア(Infernal Affair)」は、直訳すると「地獄の事件」ということになる。香港に関する本で紹介されていた作品で、この映画については特に第二作で、この年の6月30日深夜の返還時刻に、ラジオ放送で、「香港は中華人民共和国香港特別行政区になります」というアナウンスが流され、警官たちが制帽のバッジを取り換えるシーンが挿入されている、という文脈で紹介されていたものである。しかし、このハリウッド・リメイク版は、そうした政治背景はいっさい関係なく、単純な米国の闇社会が主題となる。監督は「巨匠」マーティン・スコセッシということであるが、私は初めて聞く名前である。他方俳優は、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソン等、私もよく知った人気俳優が登場している。

 ボストンの街が舞台である。まずは、街のバーで、少年が、ヤクザの関係者と思わしき男に人生訓を語られるが、彼はその後一念発起し警察学校を卒業し、マサチューセッツ州警の警察官に任命される。ビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)である。そして同じ頃、同じ年頃のコリン・サリバンも同じ職場の警察官となっている。二人は上司である警部クイーナンとディグナムのもとに出頭しているが、コリンがエリート捜査官の部署に任命されたのに対し、ストリート育ちでマフィア関係者だった家族を持つビリーは、警察学校では優秀であったにもかかわらず、その育ちに目を付けられ、マフィア組織への潜入を命じられ、警察学校を退学させられている。そして指示に従い、軽い暴力事件を起こし刑務所に短期間服役、出所後も再び喧嘩を起こすが、そこで地域マフィアのボス、フランク・コステロ(ジャック・ニコルソン)の目に留まり、その組織に潜入することになるのである。他方、同じマサチューセッツ州警察のコリンは順調に任務をこなし、同じ建物の中に事務所を持つ精神分析医マドリン(ベラ・ファーミガ)とも良い仲になるが、実は彼はフランクが警察に送り込んだ潜入員であった。そしてフランクの逮捕を目指す警察が、彼のマイクロチップを巡る高額の中国との密輸取引の手入れを行うが、それが失敗したところで、警察内部への「モグラ」の存在に気がつくことになる。他方で、マフィア内でも警察の「モグラ」が存在していることが分かり、夫々がその捜査に乗り出すことになるのである。

こうしてその後は、それぞれの潜入者の情報が錯綜する展開となるが、香港映画と同様、ビリーとコリンは、夫々のボスから信頼されており、彼ら二人に、その「もぐら」捜査の指示が下り、そして夫々が生き残りをかけた二転三転の戦いを繰り広げるというのが、話の展開のミソである。またビリーも、潜入ストレスの相談のためコリンの恋人であるマドリンと接触し、彼女と良い仲になり、それがビリーが、コリンがマフィアの潜入員であることを確信するきっかけになるのであるが、これは香港映画では使われていなかった展開であるように思う。そして最後はコリンを拘束したビリーが、マフィアから警察に潜入していた別の男に射殺されるが、コリンは彼と同僚の警察官も殺し生き延びる。しかし、真相を知ったマドリンからは疎まれる中、ビリーらの葬儀を終えて帰宅したコリンもまた、双方の上司であったディグナムにより射殺されるのであった。

 香港映画で主人公二人を演じていたアンディ・ラウとトニー・レオンに替わる二人が、ここではディカプリオとデイモンという、ハリウッドを代表する二人の二枚目俳優ということになる。しかし、これを観始めた当初は、ディカプリオとデイモンが似たような顔つきであることから、両者の識別がつかず、その結果、話の展開が追えないという事態になったが、流石に二回目を観てそれは理解したのであった。これも香港映画と同様、彼らに絡む女としてマドリン役のベラ・ファーミガが登場するのであるが、彼女は私の個人的趣味ではなかった。ただそれ以上に存在感があったのはマフィアのボス役であるジャック・ニコルソンで、既に相当の年代に達していると思われる彼(映画では70歳そこそこということになっていたので、現在の私と同年代という設定である)の鬼気迫る演技はなかなかのものであった。

 ということで、政治的な絡みは一切ない、米国の闇社会とそれに対する警察の対応を描いたアクション映画ということで、それなりに楽しめたが、二回観終わった後も、何故これを観ようと思ったのかは思い出せないままであった。

鑑賞日:2025年2月13日