ジャージー・ボーイズ
監督:クリント・イーストウッド
音楽仲間から、オールディーズを素材にした映画を面白く観た、という連絡を貰った。題名の「ジャージー・ボーイズ」は、どこかで観た記憶があったが、自分のHPを見ると、2013年にシンガポールで劇場版のミュージカルを観ていた。The Four Seasonsというコーラス・グループの盛衰を、Frankie Valli(以下「フランキー」)というリード・シンガーを中心に、各所に彼らのヒット曲を挿入しながら描いた作品である。当時の劇場版の感想は以下の通りである。
シンガポールでのミュージカル公演は、短期公演であることから、全般的にセッティングは単調である。しかし、それでも「Cats」や「Lion King」のように、衣装に加え、歌とダンスで見せるミュージカルは、それなりに楽しめる。また「Chicago」や「Wicked」のように、ストーリー中心の作品も、それなりに派手な衣装やダンスで見せ場を作っていた。それに対して今回の「Jersey Boys」は、1ヶ月のみの公演ということもあり、舞台装置と衣装はシンプル、ダンスはほとんどなし、ということで、今まで当地で見たミュージカルの中ではやや見劣りし、S$164のチケットは少々高くついたかな、というのが正直なところであった。フランキー役を始め、オリジナル・メンバーと同じように歌える俳優を集め、「The Four Seasons」の歌を再現するという点では、メンバー全員頑張っていたが、彼らにセリフも演じさせ、このバンドが辿った盛衰を表現しようとすると、そこまでこのバンドの盛衰が「ドラマチック」ではないことから、ストーリーが単調になり、ダンスや舞台装置を欠いているとやや退屈することになってしまったのである。それを考えると、やはりこのミュージカルは「The Four Seasons」を同時代的に体験した世代が、自分たちの青春時代を懐かしみながら楽しむミュージカルであったのではないかと感じたのであった(以上、別掲・再録)。
ということで、当時舞台ミュージカルとしての私の評価は余り高くなかったが、映画版はどんな感じだろうと思い、早速レンタルDVDを借りて観ることになった。2014年の制作・公開の作品で、私が観たミュージカル版(米国ではトニー賞を受賞したという)が先に公開されており、そのリメイク版となる。監督はC.イーストウッド。彼の監督作品は結構観てきたが、こんな音楽映画も制作していたということである。
映画の展開は、ミュージカルと略同じである。米国ニュー・ジャージーに住むフランキー(俳優は、ジョン・ロイド・ヤング)が、トミー(Tommy DeVito)に誘われ、The Four Loversという彼のバンドに参加する。小さなクラブでの歌と演奏に加え、フランキーの年上の恋人との出会いと結婚等が描かれていく。舞台では結構セリフが多く、会話が分からない場面が多かったが、映画では日本語サブタイトルがあるので、それは楽にフォローできる。オリジナル・メンバーであるベースのニック(Nick Massi)に加え、別のバンドで、キーボードとボーカル、そして作曲も行っていたやや内気な青年ボブ(Bob Gaudio)が加わり4人となった後、ある敏腕プロデューサー(Gyp de Carlo)と出会うことでメジャーへのデビューが決まる。そして偶々彼らが見かけた「The Four Seasons」というクラブの看板から、彼らの新しいバンドの名前が決まるのであるが、下町育ちの風来坊で、軽犯罪で警察に何度も拘束されたりしている者たちであることから、その会話は女の話を含め結構下品な言葉が飛び交うことになる。またミュージカルではこうした監獄に収監されている様子などは描かれていなかったように思うが、それは舞台でのセットがたいへんだったからであろう。
こうして、ミュージカルと同様、彼らの初期のヒットのオンパレードである。「Sherry」、「Big Girls Don’t Cry」、「Walk Like a Man」というデビュー後連続でチャートの1位となった3曲が披露され、彼らはスターダムにのし上がっていくが、直ぐにメンバー間の確執が表面化し、グループは崩壊していくことになる。ミュージカルでは挿入されていなかったと思うが、まずは、グループの立上げからリーダーシップを取っていたギターのトミーが、グループとしての多額の借金を作っていたことが判明し、フランキーらと口論になり、グループを去る。続いてベースのニックも、ツアーに疲れ、家族と共に居たいということで離れていく。またフランキーは、個人生活でもツアーで留守が続く妻との間の関係が冷え込むと共に、娘の家出に遭遇し次第に落ち込んでいく。それでも新しいメンバーを補充し、グループ活動を続けるが、そこに今度は家出した22歳の娘(フランキー同様、歌手を目指していたという想定になっているが、これもミュージカルでは描かれていなかったと思う)のドラッグ中毒による死亡という悲報が飛び込んでくる。ミュージカルでは、ここで悲しみに包まれるフランキーが「Bye Bye Baby」を歌うが、これは映画では入っていない。その悲しみを乗り越えたフランキーが、キーボード担当のボブのアドバイスでブラスを入れたアレンジで「Can’t Take My Eyes Off You」を歌い、彼はソロ・シンガーとしての地位を確立することになる。そして最後は1990年、オリジナルの「The Four Seasons」がロック殿堂入りし、メンバー4人が20数年振りに再会して「December, 1963 (Oh, What a Night)」を歌い踊るのは、ミュージカル版と同じ幕切れである。その際、登場人物に加え、監督のC.イーストウッドも僅かながら登場しているのは、2回目に観た際に気がついた次第である。
ミュージカルでは挿入されていない幾つかのエピソードについては既に触れたが、グループ崩壊に至る過程での、女記者とフランキーの愛人関係や、それにトニーが介入する様子等も、ミュージカルではなかった。こうした多くのエピソードを入れられることが映画の利点ということであろうが、一方では、ミュージカルにはない、家族や仲間たちとのドロドロした関係がより赤裸々に描かれることで、実際この映画を、フランキーの妻や、(この作品制作の中心人物であるボブ以外の)他のバンド・メンバーがどのように観たのだろうか、というのは気になるところである。
しかし今年初めに観たボブ・ディランの映画(別掲)でもそうであったが、主人公の歌手と外見や声質の類似する俳優・歌手を使い、オジリナル歌手や曲の雰囲気を再現しているのはー特にフランキーの声が高音部や裏声部分で相当特殊なだけにーなかなかのものであった。そしてミュージカルで感じた不満は、映画では話の展開をより克明に描けることから、映画版では解消されることになった。ボブ・ディラン映画でもそうであったが、彼らの曲は2-3分の短い曲が多いことから、「Cats」や「Lion King」の様に、歌(とダンス)だけで2時間近くを埋めることは出来ず、そこをセリフで埋めなければならない。その点でこの素材は、ミュージカルよりも映画の方が適していたのであろう。彼らの音楽の多くは、私は同時代では体験していないことから、「ナツメロ」としての共感が少ないことはミュージカルの評で書いた通りである、それでも1950年代から1990年代に至るアメリカ社会の雰囲気は、ミュージカル以上に楽しむことのできた映画であった。
鑑賞日:2025年7月13日