アンコール再訪
2014年11月28日ー30日
11月28日(金)
5年半ほど前、シンガポールに着任した後の最初の旧正月休暇で訪れたカンボジア、アンコールワットを改めて訪れた。最初の訪問時は、旧正月直前の衝動的な旅行であったことから、シェムリアップまでの直行便が取れず、クアラルンプール、プノンペンを経由し、約6時間かけて行った訳だが、今回は直行便なので、東南アジアの多くの主要都市と同様、2時間程度のフライトである。この日だけ有給休暇を取得した、2泊3日の気楽な小旅行である。午後2時前にチャンギをJet Airで出発、シェムリアップには定刻の午後3時に到着した。
今回の関心は、最初の旅行から約5年半を過ぎ、この観光地がどのように変わっているかを知ることである。かつてはきままな一人旅であったが、今回は、日本から合流した妻と二人での旅である。
プノンペンで入国した前回とは異なり、今回はシェムリアップ空港での入国である。オンライン・ビザを取ってきた私に対し、日本でのカンボジア・ビザ取得が面倒であったため、妻はオン・アライバルでの入国手続きである。前回との比較はできないが、中国人団体客の後ろになってしまったため、結構時間がかかってしまった。受付からビザ手交まで流れ作業になっているようであるが、7−8人いる担当者は、暇そうにしているので、結構役人の非効率な仕事をしているのではないか、と妻と毒づいていたものである。
ようやく入国手続きが終わり、タクシー乗り場に。前回は、現地通貨リエルとシンガポール・ドルしか持っていなかったために、米ドルしか受け取らない、という受付の人間といきなり交渉する羽目になったが、今回は米ドルを保有しているので、気が楽である。但し、今回は、空港からホテル直行ではなく、途中でバルーンに乗っていこうということになったため、ホテルまでの料金は、前回の12米ドルから、20米ドルということになった。バルーン乗り場での待ち時間もあるので、まあそんなものであろう。運転手は、前回の若者よりは上の中年男性。家族を田舎の親に預け、単身でシェムリアップで働いているという。
10分程で、バルーン乗り場に到着。料金は、1回のライドで15米ドル/一人、ということである。但し、空中を移動するバルーンではなく、ロープを地上に固定して、高度だけあげるタイプのバルーンであるので、物足りないかもしれないが、安全性は問題なさそうである。前の客が降りてくるのに15分ほど待ってから、我々も黄色い気球に乗り込む。我々の他は、小さな子供を連れたアジア系の3人家族だけである。天気は快晴。暑いことは暑いが、乾燥しているので、雨季のシンガポールから来るとたいへん心地よい。
バルーンが次第に高度を上げると、その一方向にアンコールワットが姿を現してくる。平原の中に忽然と姿を現すその姿は、前回は経験できなかったものである。確かに、あまりに大きな建造物であるだけに、徒歩で観光する際は、その一部しか目にすることができないが、こうして空から眺めると、全体として均整の取れたその建造物が、既に11世紀に建造されたことの驚異を改めて感じることができる。
こうして20分くらいのライドを終えて、午後5時過ぎに、前回泊まったのと同じホテル(「Prince D’Angkor Hotel & Spa」)にチェックインした。
簡単に荷物を整理してから、早速夕食を兼ねた町の散策に出かける。この5年半の間に、まず大きく変わったのは、ホテルの前のシボッタ通りが、当時は至る所が工事中で、埃がそこら中に舞っていたのに対し、工事は完成し、そこを当時よりも多くなった車やバイク、そしてチュクチュクが往来していることである。かつての記憶を呼び覚ましながら、オールド・マーケットを目指す。前回、3日間連続で通ったマッサージ・ショップも略特定できたが、その周囲には前回以上に同種の店が増えた感じであるので、慌てて入る必要はなさそうである。オールド・マーケットに近づくとレストランやバーが軒を並べている。かつて映画「トゥームレイダー」のロケでこの地を訪れた女優A.ジョリーがカクテルをプロデュースしたことで名前が知られた「Red Piano」というバー・レストランもあったが、我々が休息を兼ねて腰を落ち着けたのは、名もない小さなバー。そこでハッピーアワーで$6のカクテルを夫々注文する。出てきたカクテルに入っていた氷につき、妻が「ミネラル・ウォーターで作った氷か?」と数人のウェイター、ウェイトレスに確認するが、誰も質問の意味を理解しない。どうも、彼らにとっては想像を超える質問であったようだ。結局、外人も多数入っている店なので大丈夫だろう、ということで味わったが、その後特段の問題もなかった。
小休止した後、次はマッサージということで、バーの近所にあった小奇麗な店に入るが、偶々一杯。すると別の店に案内するということで、横にいたテュクテュクで、これも前回散策して、ちょっとした記念の土産を買ったニュー・マーケットの中にある店に案内された。$6/一時間/一人の価額であったが、マッサージは心地よく、満足できる出来であった。午後7時半前に終了。夕食は、我が家で時々アジアの旅行先でとる方法であるが、散歩中に目に付いたカジュアル・レストランで、焼き茄子、イカの炒め物、チャーハン等をテイクアウェイで購入し、ホテルの部屋で軽く済ませた。この中では、特に焼き茄子が大変美味で、欧州産のように大きいが、それよりも味がしっかりしていて、結構気に入ってしまったのであった。食後に散歩がてらシボッタ通りに出て、$1のマンゴを買い、プールサイドで軽く摘んでから部屋に戻ったのである。
11月29日(土)
アンコール1日観光である。前回は、車のチャーターが1日で25米ドルであったが、今回は昨日空港から乗ったタクシーの運転手と30米ドルで仕切ってある。前回よりも5米ドルの上昇である。9時に時間通り迎えに着た運転手の車でアンコールに向かう。アンコール1日入場券20米ドル/一人というのは、前回と変わっていない。また、今回は入場券販売所が前回のように多数の人で混雑しておらず、簡単に写真付きの入場券を取得し、アンコールに向かった。
9時半に入り口に到着し、中に向かう。天気は快晴、乾燥しているとは言え、長い参道を歩いていると徐々に暑さが染みてくるので、本堂に到着し日陰に入るとほっとする。それからの観覧ルートは、ほぼ前回と同じである。前回同様、あっちこっちにいる団体客、なかんずく中国人団体客を避けながらの観覧であるが、そうした団体客も、前回感じた程は今回はいないことから、マイペースでの散策が可能である。前回よりも休息を頻繁にとりながらゆっくり全体を見て回るが、壮大な建物や繊細なレリーフは何度見ても素晴らしい。本堂の裏手には、民族衣装を着た数人の女性が観光客と一緒に写真に納まっていたが、眺めていると、日本人の一団が、彼女たちに加わった。若いモデル風の女性にカメラマンなど3人のグループであったので、何かの雑誌の取材をやっていたのだろう。結局我々は二時間近く散策し、11時半頃、再び入り口で待っていた運転手と合流し、続いて、前回と順序を変え、まずはタ・ブロームに移動した。
言うまでもなく、このタ・ブロームは前回私が多くのアンコールの遺跡の中でも、最も強い印象を受けた場所であり、前述のA.ジョリー主演映画のロケでも使われた遺跡である。今回も改めてこの感動を追体験したが、さすがに5年程度の月日では、建物を覆う溶樹も、大きく成長していることもなく、初めて見た前回ほどの迫力はなかった。おそらく観光客が増加しているからだろう、一部は近くに接近できず、観覧用のスペースからだけ眺めるような管理が新たに導入されていた。
12時半に、ガイドが案内してくれたレストランで昼食を取った後、午後一番はアンコール・トムへ移動した。まずはバイヨンである。前回から修復が進んだという感じはあまりない、相変わらずの瓦礫の山であるが、菩薩の微笑みは、何度見ても心が洗われる。前回に比べて人が少なかったこともあり、ゆっくりと時間を過ごし、隣にあるパプオーンに向かう。前回は修復中で、中には入れなかったが、今回はそれも終わり、初めて中に入ることができた。ただ中は、バイヨンと同じような感じで、特段目を引くようなものはない。前回、狭い階段を昇ったビミアナキスは、下から眺めるだけにして、そのまま「象のテラス」の前にある広場で待っていた運転手に合流した。前回同様、時間的な余裕はあるが、そのままホテルに帰ることにし、午後3時半頃、ホテルで運転手と別れた。
この日は、その後、プールで少し泳いだ後、午後4時半頃、トゥクトゥクで、オールド・マーケットに移動し、そこで軽くカクテルを飲んだ後、1時間のマッサージ(6米ドル×2)。そしてその近所のしゃれたレストランで、トムヤン・スープ、マーボー茄子、鶏の炒め物、そして定番アンコール・ビールといった感じの夕食(12米ドル/二人)をとり、またトゥクトゥクに揺られながら8時半頃、ホテルに戻ったのであった。
11月30日(日)
9時前にチェックアウトし、ホテルを出た。昨日の運転手兼ガイドは、別の客がある、ということで、今日迎えに来たのはその友人という運転手である。40分ほど走って、見慣れたトンレサップの船着場に到着した。前回は24米ドル/一人ということで、割高感があったが、運転手が今回は30米ドルというので、まずは妥当と思ったところ、なんと30米ドル/一人ということ。前回に比べてもちょっと高いではないか、と文句を言ったが、数年前にこのツアーは30米ドル/一人という均一料金となったということで、平行線。やややられたな、ということではあるが、止むを得ないので了承し、水路に出る。しかし、広大なトンレサップに、岸が見えないところまで足を伸ばした前回と異なり、今回は、水上生活者を眺めながら水路から広大な湖に出たところで、ブイに浮かんだ休憩所で小休止したら、その後は直ぐに帰途につくことになってしまい、11時には船着場に戻ってしまった。明らかに前回より運行距離や時間が短くなっており、この5年間で、ここは相当観光者ズレしてきたというのが、この日の印象であった。
待っていた運転手に合流し、市内に戻り、帰国前のマッサージ(8米ドル×2)、そしてオールド・マーケットを眺めてから、その側のレストランで、ベトナム風春巻き、イカの胡椒炒め(茎についたままの緑色をした胡椒がふんだんに入ったこの料理は出色であった)とビールの昼食をとり、午後2時過ぎに直接空港に向かった。定刻午後4時にJet Starは出発し、午後7時、チャンギ空港に戻ったのであった。
5年半振りのアンコール訪問は、確かにこの間の町の開発の跡を感じることができたが、同時に観光物価の上昇も痛感させるものになった。何度訪問してもこの世界遺産の景観は素晴らしいが、観光業収入の増加に伴い、それに関わる人々の感性も変わっていくのであろうことに、一抹の寂しさを覚えたアンコール再訪であった。
尚、この記録は、旅行直後に書き留めたが未完成のままになっていたものを、10カ月近く経ったところで、改めて最終的にまとめたものである。
2015年9月5日 記