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HSBC Women Golf 観戦記 (写真付)
2010年2月28日 
 2月25日から28日の4日間、シンガポールのタナ・メラ・ゴルフ・クラブ(ガーデン・コース)で、米国LPGAツアーの今期第二戦が開催された。それに先立つ前週に、タイのリゾート地パタヤで、LPGAの第一戦が行われ、日本から出場した宮里藍が、最終日6打差を逆転し、彼女自身通算二勝目になる同ツアーの勝利をあげていた。彼女を含め、タイのツアーに参加した世界トップクラスのプレーヤーが、恒例のこの大会に参加するということで、地下鉄の駅を含め、町の中には宣伝のポスターが溢れていた。日本選手では、宮里以外にも、タイでの第一戦に参加した上田桃子や諸見里しのぶ、宮里美香に加え、第二戦から参加する横峯さくら等も加わり、また外人プレーヤーとしては、やはり第一戦で、最終日、宮里に逆転を許したノルウェーのスザンヌ・パターソンや、ランキング1位のロレンス・オチョアらに加え、米国からミシェル・ウィー等も加わるとのことであった。

 会場となっているタナ・メラ・ゴルフ・クラブは多くの日系企業が会員権を有していることから、こちらに来てから何度か連れて行ってもらったことがある。最近でも、2月の初めにここで行われた日系企業主催のコンペで、大叩きをして恥をかいたところであるが、自分も何度か回ったこともあり、コースはそれなりに分かっているという親近感から、木曜日の第1ラウンドから、関心をもってスコアの推移を眺めていた。

 27日(土)、週末の日常的な午前の時間を過ごした後の昼食時、テレビでこの実況をつけたところ、宮里が首位に1打差で健闘していることが分かった。これは翌日の日曜日、行くしかないと考え、昼食後インターネットでチケットを予約、日曜日に地下鉄と専用シャトル・バスを乗り継いでクラブに向かった。結果的に、3日目が終わった時点で、宮里は通算7アンダーでトップ・タイ。上田も順位を上げ、通算5アンダーで、最終日は宮里と同じ最終組でのスタートである。日本人では横峯も通算3アンダーで10位タイと、日本人3人が好位置に付けている。

 9時過ぎにクラブに到着した時には、既に外は酷暑である。そもそもこの2月は、エルニーニョの影響ということで、シンガポール観測史上、最も雨が少ない乾燥した一ヶ月になっており、気温も過去の最高気温に近くなったという。こうした酷暑の中での最終ラウンドである。
 
 入口で、公式プログラムと共に、当日のスタート順を記載したパンフレットを受取り、どう動くか考える。そもそも日本では、ゴルフのギャラリーなど全く関心がなかったことから、全くの素人である。宮里を始めとするトップ・グループは1番ティーから、下の半分は10番ティーからのスタートであるが、まずは入り口から近い10番ティーで、3日目まで4オーバーの諸見里しのぶのグループが9時9分スタートということで、ここに向かった。

 下位グループということで、人は疎らであるが、もちろん日本人が入っているグループということで、日本人のギャラリーが数組既にティーグラウンドを囲んでいる。台湾と韓国のプレーヤーと共に、諸見里が、ドライバーでのティショットを放つ。横にいたため球筋は追えなかったが、さすがプロというきれいなスイングであった。

(諸見里のスタート)



 彼女たちが動き始めるのを待って、直ちに1番ティーに移動する。そこでは、ミシェル・ウィーが9時20分のスタート予定である。到着してすぐ、ウィーを含む3人がティー・グラウンドに現れ、軽く準備運動をした後、大会関係者との記念写真撮影を済ませてプレー開始である。第一打は、ウィーだけ右のラフで、他の二人はフェアウェイ。一緒に動き、グリーン位置で第二打を待つ。ここでも、他の二人が2オンしたのに対し、ウィーだけがグリーン奥にはずすが、絶妙のアプローチでパーセーブをした。そのまま折り返し2番ホール。ここは3人とも、パーオン、2パットのパーであった。

 そこからこの組と離れ、再び反対側の1番に戻る。一組間に挟み、9時42分スタートの横峯のパーティである。上位に付けている日本人のパーティとあって、日本人ギャラリーの数も増えてくる。プレーヤーの紹介に続いて、横峯が、小さな身体から独特のダイナミックなフルスイングでティーショットを放つ。米国人と韓国人と同じパーティであるが、一緒について歩き始めると、ティーショットは3人ほぼ同じ位置。フェアウエイの真ん中である。ウィーのパーティと同様、そのまま2番のグリーンまで移動して、最終組の宮里、上田を待った。

 最終組のスタートは10時15分である。日本人ギャラリーが続々と集まってくる。そして前日まで首位の宮里と米国のジュリ・インクスター、そして2打差3位の上田が登場する。それでもギャラリーの数はせいぜい100人くらいだろうか。既に述べたとおり、私は日本でのギャラリーの経験はないが、おそらく日本での主要な大会の最終組となると、こんなものでは済まないのではないだろうか。数年前に、私の自宅近所の戸塚カントリーで行われた大会では、宮里が勝ったが、この時は、私が毎日乗り降りする駅が週末も大混雑し、確か最終日にはギャラリーが12000人に膨れたとの新聞記事があったのを覚えている。それに比べれば、日本選手のみならず、世界の女子プロの主要プレーヤーが集まっているとは言え、何とも気楽な観戦である。

 彼女たちから約20メートルほど離れた、ギャラリーラインの最前列で、ティーショットを眺める。宮里のゆっくりとしたスイングと上田の力強いスイングは対照的であるが、第一打は結果的に3人ほぼフェアウエイ真ん中の同じ位置。第二打は上田がピンから3メートルくらいに付けたのに対し、宮里はグリーン左約10メートル、インクスターは左のラフ。まずインクスターがアプローチを1.5メートルほどにつけ、続いて宮里がパットでそのやや内側に寄せる。上田のバーディーパットは惜しくもはずれ、これは3人パースタートかなと思っていると、先に打ったインクスターがパットを外し、ボギースタート。続く宮里も外し、ギャラリーからため息が漏れる。首位二人がいきなりのボギーで、この日の混戦が予想される。

(宮里・上田のティーショット後)


 私の横1メートルくらいを抜けて3人が二番ホールに移る。日本人は二人とも身長は160センチ以下で、小柄である。その辺を歩いていれば、彼女たちがゴルフのスターである、という雰囲気では全くない。数組前に同じ位置で見たウィーが、身長180センチ近い長身で、横を通る時に見上げる感じであったのと大違いである。

(宮里、1番ホール・ボギー)


(2番ホールへ向かう上田)


 二番のティーショットは3人ともまたフェアウエイ真ん中の同じくらいの距離。横で見ていると、ボールは右にある池に向かって出ている感じであるが、歩いていくと、ちゃんとど真ん中に落ちているのはさすがである。しかし、このホールも上田以外の二人は第二打でグリーンを外し、パーパットも二人決まらず、3人が5アンダーで並ぶことになる。

 三番は、池に囲まれたショートである。ギャラリースペースが狭いこともあり、ティーショット(三人共軽くワン・オン)後は、二番のグリーン横に戻り、やや距離はあるが、一般のギャラリーと反対側からグリーンでのパットを眺めた。宮里は、パー・パットがややカップを回る感じで危なかったが、取り合えずこの日初のパー・セーブである。

 クラブに到着してから約2時間が経ち、強い陽射しもあり、そろそろ潮時かなと思い始めた。4番以降は、クラブハウスから遠ざかることもあり、宮里・上田組から離れ、スタート表を見ながら、アウト・スタート組が1番に戻ってくるのを待つことにした。

 11時過ぎ、10番からスタートした、世界ランキングNo1のロレーナ・オチョア組が1番ホールに現れた。この組は、朝一番10番で見た日本の諸見里のひとつ前の組である。スコアは相変わらずスタート時と同じ3−4オーバーであったが、オチョアは体型も、欧米系プレーヤーの多くがそうであるようなホルスタイン型ではなくバランスが取れており、なかなか可愛いという印象であった。スイングは見事であったことは言うまでもない。

 2時間近く、1番ホールを中心に動き回って、そろそろ脱水症状に近い状態になってきたので、余り無理をせず、帰る方向に動き出す。途中、池越えの18番グリーンに向かうパーティーなどもちょっと眺めながら、出口に向かい、待っていたシャトルに乗り、12時過ぎに、自宅最寄の地下鉄駅に戻ったのであった。

 自宅プールでしばらくのんびりし、帰りに買ってきたハンバーガーの昼食を食べながら、テレビで観戦する。宮里は、私が離れた後の4番で、この日最初のバーディ。そして11番からの3連続バーディで、私がテレビをつけた時点で、米国のクリスティ・カーと並びトップを走っていた。その後、宮里は、ボギーをひとつ叩くが、再び前日イーグルを取った短いパー4の16番でバーディ。片や、宮里の2組前を行くカーは17番で、ティーショットを林に打ち込み(後ほどの新聞記事によると、虫に悩まされた結果、とのことである)、続く18番と共に痛恨の2連続ボギー。結局最後の2ホールを確実にパーで収めた宮里が、先週のタイ・パタヤに続いて、米国LPGA開幕に続く連勝を遂げ、賞金195千米ドルを獲得することになった。新聞報道によると、米国LPGAの開幕2連勝というのは、1966年、マリリン・スミスという選手が達成して以来、44年振りの快挙とのことである。またこの結果を受けて、後日宮里は世界ランキングを4位から3位に上げることになる。

因みに、この試合の上位は、以下の選手である。

優勝:宮里藍(10アンダー)
2位:K.カー(8アンダー)
3位:S.H.キム、J.シン(昨年の優勝者)、Y.ツェン、S.パターソン、I.K.キム、V.ハースト(7アンダー)

以下、日本人及び主要選手のランクは、

9位タイ:横峯さくら(5アンダー)
15位タイ:上田桃子、M.ウィー(4アンダー)
19位タイ:宮里美香、K.ウェッブ(3アンダー)
38位タイ:諸見里しのぶ、R.オチョア(4オーバー)

といったところであった。

 シンガポールは、国土も狭く資源もないことから、1965年の独立後、経済成長を遂げることに集中し、文化の育成にはほとんど予算を配分しなかったと言われている。そのため、この地でのエンターテイメントが非常に限られていることは、このHPでも度々触れてきた。

 しかし他方で、何か催しがある場合は、チケットの取得は楽であり、また付加価値が高いのも確かである。今回も、突然前日に思い立ってチケット(S$30/1日)を購入し、そして公共交通機関で、1時間もかからずこうした郊外のゴルフ・クラブに行き、そして十分と思えば昼前に帰って来れる、というのは、私のような「衝動型」且つ「飽きっぽい」人間には、非常に好都合である。今回の最大の難敵は、前述の酷暑であり、もし日本的な感覚でこれに参加した場合は、折角の機会なので最後の優勝決定まで見届けたいと思い、そのまま18ホール周り、結果的に完全にへたばっていたのは間違いない。その意味では、当初の2時間半くらいだけの観戦であったが、全く心残りはなかった。

 そして今回の選手たちについて言えば、あの酷暑の中、カートにも乗らず18ホールを歩き、しかもこれほどのスコアを出せる、というところにプロの凄さを見たという気がする。実際、宮里も、優勝後のインタビューで、「後半14番くらいで、暑さから頭がクラクラ来た」と言っていたが、それでも最後まで素晴らしいプレーを見せたのは見事としか言いようがない。

 当地では秋口に、男のプロ・ゴルフのツアーも毎年恒例で行われている。次はこちらも話のネタに見ておくかな、という思いを持ったのであった。

2010年3月6日 記