Incanto(夢幻奇遊)
2013年1月12日
同じセントサの劇場で一昨年に見た「Voyage de la Vie」の後続ショウとして公演されている「Incanto(夢幻奇遊)」に、2013年最初のシンガポールでの週末に出かけていった。「Voyage de la Vie」は複数の手品師の小さなマジックとアクロバットを組み合わせたショウであったが、今回の出し物は、そこでのアクロバットとサンズ劇場で昨年見た「Illusionists」でのやや派手なマジックを組み合わせたマジック・アクロバット・ショウである。昨年の12月初めから始まり、今年の3月初めまでの、約4カ月の公演である。この手のショウとしてはやや高めのS$101のチケットを購入したが、席は中央前から5列目のなかなか良い席である。
8時、ピエロが登場。観客席から男4人のボランティアを募り、ちょっとした遊戯で笑いを誘った後、ショウが始まる。中国人女性歌手(Jester)の歌とダンサーによるイントロ。続けてステージに運び込まれたクレーンに載せられた空のガラス・ケースが煙で満たされると、そこからこのショウの主役である手品師(Joe Labero)が見事に登場する。
ここからしばらく彼の「幻想マジック」ショウである。別の空の箱からのブロンド美女の登場。その美女が入った箱の切断はよくある手品であるが、6つに切断された箱をそれぞれ離したのは「何で」という驚きである。そして続けて小さなテーブルに広げたクロスの端を持ってのテーブル浮遊。その状態で会場前方席を一回りし、私の席の傍で観客のボランティアにも一緒にクロスを持たせて浮かせていたが、もちろん釣られている糸などは全く確認できなかった。更に、横に寝かせた美女の空中浮遊。彼もその後で浮き上がり、美女に被せた布を取り除くと、そのままの状態で美女は空中に滞在し、しばらく後にゆっくり下降してくるのである。美女の姿勢から考えても上から吊るされているという感じではないので、どんなトリックかは全く想像することはできない。
彼の手品が一段落すると、次はアクロバット(Shenyang Acrobatic Troupe)。天井から降りてきた鉄格子を使っての男女ペアでのスリリングな空中ショウ、大小の輪を宙返りで潜り抜けるアクロバット。3本の輪を潜り抜けるタンブリングでは、最後の輪の前で失速する者もいたが、最後の5段に重ねられた輪の潜り抜けは、高さも相当であり、それを見事に輪に接することなく伸身バック宙で潜り抜けていた。
再び手品師が登場。今度は美女を頭と足部分だけ支えて横たわらせた上で、クロスを前にかざしながら、彼が後ろずさりながら美女の中央を潜り抜ける。奥から、またもう一度、今度は前進で通過。もちろん美女の頭と足は我々に見えているので、これも不思議なマジックである。その後、観客席から連れ出した一般女性を立たせたナイフ投げ、そして次は手品師自身がターゲットになった女性のナイフ投げと続くが、これはマジックの中での笑いを誘う、ほんのお遊びであった。
このあたりからショウはややストーリー仕立てになる。冒頭で登場した中国人女性歌手Jesterが手品師から与えられた魔法の本の鍵を持ち、ピエロと一緒に闇の国に迷い込むと、そこで待ち構えていた屈強なDungeon masterが彼女たちを捕え、鍵を奪い取る。Jesterの歌と悪者たちのダンスに続いて登場したのは、アクロバットのこの日のショウのハイライトである「Wheel of Death」。二つの鉄のリングを両端につけた二組の巨大なマシンがステージに現われる。丁度ハムスター等のケースに入っているような運動用の輪が、観覧車の軸に据えられたようなマシンである。そして人が輪の内側を動くとマシンの全体が大きく回転していく。当初は、回転するのに合わせてハムスターのように輪の内側を4人の男が動いているだけであったが、そのうち、其々のマシンのペアの一人が輪の外側に出ていく。彼らは回転に従いながら輪の外側でバランスをとっていくが、回転のスピードが次第に上がると、時々バランスを崩しそうになる。最も高い位置では12メートルに達するということで、もちろん命綱などは全く付けていないので、見ているこちらもヒヤッとする(実際一人がバランスを失い、枠にへばり付いて落下を免れることもあった)。そして最後には彼らは縄跳びを持ち出して、回転する輪の上で縄跳びまで披露したのであった。サイトでの解説によると、このアクロバット(演じたのはShenyang Acrobatic Troupeである)は、ラスベガスのショウでセンセーションを巻き起こしたもので、アジアで披露されるのはこれが初めてということである。
続けてDungeon masterに捕えられたJesterを助けに来たという想定で登場した手品師のイルージョン。まずは手品師が捕えられ、無数の槍が付けられた処刑台に手足を固定されて横たわる。処刑までの時間は45秒。ステージの時計が動き始め、処刑台の中で蠢く手品師の影が映し出される。処刑10秒前に処刑台が暗転し、そしてギロチンが落下する。しかし覆いが取り除かれると、そこには手品師の姿はなく、直ちに観客席の私の席の後ろの通路に彼が現われるのである。続けて今度はDungeon masterは手品師を、大きな切断機が回転する処刑台に括りつける。彼の股下から頭に向かって巨大な回転切断機が通り抜けていくのであるが、ここからも彼は何事もなかったように無傷で帰還するのである。手品師たちとDungeon masterの最後の戦いが始まる。殺陣し自体は可愛いものであったが、今度はそこで逆襲され捕えられたDungeon masterが、回転切断機にかけられる。手品師の処刑は股下から頭にかけての切断であったが、今度はDungeon masterの身体を横から切る処刑である。切断機が彼の身体を横切ると、それが前後に切り裂かれ、其々が動きながら別々にステージ奥に消えていくのである。
こうして大団円のJesterによる歌とダンスでこの日のショウは終了する。終了は9時半。休憩なし、1時間半のショウであった。
今回のそれも、「Voyage de la Vie」や「Illusionists」と同様、あまり考えずにただ楽しむことができるショウである。手品の幾つか(例えば、処刑台からの瞬間移動やDungeon masterの切断等)は、過去に見たものと同じトリックを使い、演出を変えているだけであると思われるが、それでもそのトリックは想像することもできず、驚きは新鮮である。改めてショウ・ビジネスの世界でのこうしたエンターテーメントの進化と、それを気楽に見ることができるシンガポールの快適さを感じた一夜であった。
2013年1月13日 記