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日本・ブラジル サッカー親善試合 観戦記
2014年10月14日 
 10月14日(火)、シンガポールのナショナル・スタジアムで行われた、日本代表とブラジル代表のサッカー親善試合を観戦した。

 今回シンガポールに再度赴任した後、しばらくはコンサートを含め、エンターテーメントとは距離をおいたまま、約4ヶ月を過ごしていた。その間、もちろんまずは、新しい住居での生活リズムと新しい業務に慣れる必要から、そうした企画はやや意識的に遠ざけていたところもあった。しかし、それも一段落したところから、そろそろ動き出そうということで、最初に出かけていったのが、このサッカーの親善試合であった。

 シンガポールのナショナル・スタジアム(Sports Hub)は、Kallangという地域にある、今年9月に完成した、開閉型天井をもった新しいスタジアムである。同じ地域にある、やや小ぶりの体育館であるIndoor Stadiumは、前回の滞在時も、コンサートやテニスの観戦などで度々訪れていたが、数年前から、その横にあった旧スタジアムが解体・再建に入っていた。9月の完成後、リー・シェンロン首相も参列した記念行事を経て、ラグビーの国際大会などが開催されていたが、今回は日本代表とブラジル代表を招致してのサッカー親善試合ということで、早くからこの企画が発表された。先月後半、正式にチケット発売が開始されたが、当初は、まずあまりにミーハーであることから、また55,000人という収容規模を考えると、チケットはいつでも取れるだろうとたかをくくっていたこともあり、しばらくは静観していたが、ある時、これを是非観戦したいという友人が出てきたこと、そして意外とチケットの売行きが良い、という話にも接したことから、その時点でS$74という、相対的に安めの席を確保した。まあ、選手は豆粒でも、新しいスタジアムの雰囲気を味わえれば良いだろう、という程度の期待感であった。

 試合の直前、新聞には、この日のチケットが完売したとの記事が載り、また会場のウェブ・サイトでは、会場の駐車場の事前予約も完売、周辺道路は大混雑が予想されるとのことであった。一方で、最新技術を駆使して設計した自然芝と人工芝の合成グラウンドの状態が非常に悪く、砂が浮き出てきている他、芝付もまだら状態(patchy)になっており、両チームとの監督とも、選手の怪我を気にしている、という報道も掲載されていた。新たに日本チームを率いることになった監督のアギーレが、「(今回のシンガポールでの試合は、)厳しい環境下で、どれだけ選手が対応できるかを見る」とコメントするような状態だった。

 そんなこともあり、当日は、我々は車をマリーナ地域のショッピングセンターの駐車場に止め、地下鉄で2駅乗って、会場のスタジアム駅に到着した。以前に何度も Indoor Stadium に来た時に使用した改札を出ると、進行方向右側に巨大なドームが屹立していた。ドーム自体は、離れた場所からは何度も見ていたが、近くから見るのは初めてなので、その変化に驚きながら、当日の我々の入り口である「3番ゲート」を目指す。試合開始は6時45分ということであったが、どうせ開会のセレモニーもあるだろうということで、我々は丁度その時間にスタジアムの横に辿り着いたところ、双方の国の国家が演奏されているところであった。そしてゲートを探すのに逆周りをしてしまったため、やや時間をロスしたが、会場に入った7時少し前には、既に試合が始まって数分が過ぎたところであった。

 前述のとおり、安い席なので、ピッチからは相当遠く、選手も豆粒かな、と思っていたが、当日の「Section 209 Seat 11 Row LL」は、それほど悪い席ではない。かつて、東京ドームやロンドンのスタジアムでロック・コンサートに参加した際、本物は豆粒で、ほとんど大スクリーンを眺めていたのに比べれば、全く問題ない。またこの直前にサッカーの観戦をしたのは、シンガポール赴任前に、新聞販売店からもらった只券で見た、横浜日産スタジアムでの横浜マリノス戦であるが、その時の方が圧倒的にピッチから遠かったとの印象である。そして何よりも驚いたのは、事前の「完売」という報道を裏付けるかように、確かにスタジアム全体を見渡して、空席がほとんどない、ということであった。その後、試合中に、当日の公式入場者が51、577人であったとアナウンスされていた。

 海外での親善試合ということで、もちろん3連休を利用して日本から来たサポーターも若干はいたのであろうが、「サムライ・ブルー」に固まったブロックもなく、また予想に反してブラジル・サポーターの黄色シャツグループもそこそこ目に付く。試合翌日の新聞では、「観衆の半分は日本人」と報道されていたが、そこまで日本人が目立っていた印象はない。当然ながら、日本人に限らず、子供を連れた家族での観戦者も目についた。

 肝心の試合内容は、日本人にとっては全くフラストの溜まる展開であった。まず前半18分、カウンターから抜け出したブラジル主将ネイマールが、いとも簡単に右足で先制。サイドを変えて、日本ゴールが我々の席に近くなった後半には、やはり速攻や、キーパー川島の弾いたボールを押し込まれたり、最後はセンタリングからのヘッディングと3発、全てネイマールに決められた。それに対する日本は、前半でこそ、岡崎が際どいシュートを何本か打っていたが、後半は、本田を投入したにもかかわらず全く成すすべなく、0:4で完敗したのであった。確かに日本は、欧州組がほとんど参加しておらず、若手中心のチーム編成(*)ということではあったが、おそらくネイマールや、後半投入されたカカなどを除くとブラジル・チームも同じような構成であったと思われる。しかも彼らは地球の裏側から移動し、先週末は、「スモッグにまみれた」北京で、アルゼンチンとの強化試合をやってからシンガポールに乗り込んできた、というハンディーがある。それでも、両チームの間には、個人の技やスピードで決定的な差があることが強く感じられた一戦であった。

 試合終了後、友人と大混雑の地下鉄で、マリーナに移動し、そこで軽く夕食をとってから、駐車場に止めた車で帰宅した。一年中夏のシンガポールでの、夕涼みを兼ねた気分転換のイベントと考えることにした。

(*)当日の双方の先発メンバーは
(日本)
GK 川島(スタンダール・リエージュ)
DF 酒井高(シュツットガルト)、森重(F東京)、塩谷(広島)、太田(F東京)
MF 柴崎(鹿島)、田口(名古屋)、田中(スポルティング)
FW 小林(川崎)、岡崎(マインツ)、森岡(神戸)
(ブラジル)
GK ジェフェルソン
DF ダニーロ、ジウ、ミランダ、フィリペルイス
MF ビリアン、エリアス、オスカー、ルイスグスタポ
FW ネイマール、ジエゴタルデリ

2014年10月15日  記