麻布という不治の病
著者:おおたとしまさ
シンガポールへの一週間の旅行前から読み始め、帰国の飛行機の中で読了した。先に掲載した恩師の横光利一論を読み終えたところで、ブックオフで見つけたが、ここのところ麻布の同級生との飲み会等が増えている中で、偶々この関係に続けて眼を通すことになった。著者は、麻布中高から上智大学英語学科を経て、リクルートに就職。その後独立して教育関係に長く関わりながら、こうした関係の著作を60冊以上出版しているという。1973年生まれというので、私よりも20歳くらい年下の後輩である。その著者が、麻布的な個性を持った学園の卒業生9人を取上げながら、それを「麻布病」と揶揄しながら、そうした個性の源泉を、私も同時代で体験した学園紛争の経緯や、その「後遺症」といった記述を交えながら説明することになる。
概ね予想したような記述が多く、気楽に読み流せる半面、さして新鮮な記載がある訳ではない。取り上げられている9人も、それなりに面白い経歴を有しているが、別に麻布卒業生でなくとも、こうした人物はいくらでもいる。それを麻布生だから、と規定するのはやや単純な見方である。ただよく言われるように、元々自由な校風であり、そこで既成の枠からはみ出す人間を相対的には多く輩出してきたというのも、もちろんある程度は当たっているのだろう。
その9人は、まず1945年生まれの谷垣純一から始まり、1952年生まれの医師亀田隆明(私の1年上)、1955年生まれの元文科省次官、前川喜平(1年下)、国際弁護士でテレビのバラエティなどにも出演しているという湯浅卓(2年下)という私の同年代の3人を経て、1959年生まれの社会学者、宮台真司、1967年生まれで東大から興銀を経てヤフーで大成したという伊藤羊一、1974年生まれでドローン会社経営の個人投資家、千葉功太郎、1975年生まれの文化放送アナウンサー、吉田尚記、1985年生まれの東大卒プログラマー(ゲーマー)ときど(本名:谷口一)、そして2017年麻布卒業の現役芸大生や、匿名の現役麻布生2名へのインタビュー等、私よりもずっと若い世代へと続く。その間に、学園創設者江原素六や例の学園紛争の経緯などが挿入されることになる。
これらの人物が紹介されているのは、偶々著者に接点があったということで、別にもっと面白い輩もいれば、名は知られているが、全く個性的には面白くない連中も幾らでもいる。私の同世代ということであれば、面白いのは、音楽関係であれば、1年上の樋口康雄(ピコ)や東郷昌和、あるいは3年下の武部聡が「麻布」的な有名人として挙げられる。他方、政治家では、まず谷垣世代では、総理大臣経験者としては橋本竜太郎と福田康夫、その他与謝野薫等が知られている。また同学年(且つ私の勤務先では後輩)の故中川昭一や現財務大臣の鈴木俊一等がいるが、彼らはどちらかと言うと余り面白みのない(「麻布」的でない)連中と言えるだろう。経済界では、私の1年上にみずほFG社長を務めた佐藤康博がいるが、彼なども、麻布時代はほとんど影の薄い、個性のないただの優等生である。またこの本で取り上げられている前川も、麻布時代から東大、文科省時代は目立たなかったようで、偶々加計学園問題で安倍政権に逆らったことで、「麻布」的有名人になっただけである。そんなことを考えると、ここで紹介されている人物の多くが、偶々著者と接点があった、それなりに面白い経歴を経た連中で、それを「麻布」的というコンセプトでまとめただけの著作である。
ただ冒頭に述べた通り、古希を直前に控え、麻布時代の友人たちとテニスや飲み会を一緒する機会が多くなり、昔話に花を咲かせることが多い昨今、この本もネタの一つになるだろうという程度の著作である。その中で、学園紛争の説明で、1971年11月の全校集会の議長で、当時の写真で山之内代行の後ろに立つ「英雄Aさん」が著者のインタビューに答えている。核マルや中核といったセクトに属しておらず、この集会での山之内代行への暴力が結局彼の退陣を決定付けたことを未だに複雑な思いで回想しているという彼は、当時高校3年生であったということなので、私の同級生である。それが誰なのか、近くまた集まる同級生の飲み会で聞いてみたいと考えている。
読了:2024年1月15日