アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
川崎通信
不安な演奏
著者:松本 
 1961年(というので、私が6−7歳の頃の発表である)、週刊文春に掲載された長編推理小説。東京のラブホテルで録音された男二人の不穏な会話を聞いたある雑誌記者が、その後新潟県は柏崎の海岸で発見された若い女の溺死事件が、ある政治家の汚職絡みの事件との関係があるのではないかと疑い、それを勝手に捜査していくという話である。

 雑誌記者の宮脇は、そのラブホテルでの男二人の会話の件を話し興味を抱いた旧知の映画監督久間と共に動き始めるが、その久間は、女の溺死体が見つかった柏崎を訪れ、これまたそこで偶々出会った葉山という若い男もその捜査に引き入れ、葉山は撮影で忙しい久間に変わって宮脇と行動を共にすることになる。そして、溺死した女のポケットから見つかった電車の回数券の出所を調べる過程で、まず国務大臣に関係する地方政治家とその娘が関係していることを知ると共に、国務大臣の参謀格の66歳の男が、選挙違反事件の直後から失踪していることから、この事件がその選挙違反事件に関連していると推測し、その失踪した参謀格の男の行方を追うことになる。しかし、地方政治家も白浜の温泉地で殺され、宮脇らが接触していたその娘も失踪する。夫々の事件について警察の捜査も難航する中、宮脇と葉山は、お互いに何となく不信感を抱きながらも共同して捜査を進め、最後は失踪し、隠れ家を転々としていた参謀格の男を発見し、彼から一連の殺人事件の真相を知らされる、という落ちになるのである。小説では、その過程で、宮脇や葉山が、夫々の登場人物の住まいや事件が起こった場所等を巡りながら、関連する人物たちの動きを追いかける「トラベル小説」のような雰囲気も醸し出すことになる。読者は、著者の他の小説でも頻繁に使われている時刻表を基にした関係者たちの動きの推測等を行うことから、読者はそうした場所に旅をしている雰囲気を楽しむことができる。また小説の素材として使われている殺人・遺体投棄事件は、最近栃木県で発生した、上野の店舗経営者夫妻の殺人事件の様に、半世紀以上経った今でも時折起こっており、人間の世界が時代を経ても変わらないことを物語っている。

 ただ、これまで読んできた著者の作品と比べると、そもそも雑誌記者とは言え、サラリーマンである宮脇が、多大な時間を割いて各地を飛び回るという設定にやや無理があり、また彼と行動を共にする葉山という若い男の素性もやや釈然としない。読了迄、結構時間がかかってしまったのも、そうしたことで、今一つこの小説世界に没入できなかったことが理由なのであろう。ただ著者の古い小説は、それにも関わらず、また手にしてしまうのだろう。

読了:2024年4月15日