再び消されかけた男
著者:B.フリーマントル
前作に続くチャーリー・マフィン・シリーズの第二弾で、原作は、前作の1年後の1978年、邦訳の出版は1981年である。前作で、英米情報部合同によるソ連高官亡命支援作戦で、自らが捨て駒とされることと、亡命が西側に逮捕された大物スパイを取り返す謀略であることを見抜き、最後に英米情報部の高官をソ連に拉致させる手引きをすると共に自らは生き残ったチャーリー・マフィン。その彼に対し、ソ連に拉致されるという大失策を犯し失脚した旧指導者を含めた英米情報部の面々が、報復のための大作戦を企て、それにチャーリーが対抗していくという話しである。
その作戦は、スイスはチューリッヒで、前作で英米情報部から奪った現金で、妻のイーディスと共に悠々自適で暮らしているチャーリーの、スイスやブライトンの銀行口座に、釈放された銀行強盗犯を使って侵入し、その金の一部を取り戻すと共に、前作で引退させられ死んだ彼が敬愛する上司の息子で、ロイズ保険協会の引受人であるウィロビーとチャーリーが接触し保険に出資したことから、ソ連から展覧会への出品として英国に来ていた美術品を盗み取り、その保険会社に多大な損害を与えてチャーリーを窮地に貶め、そして最後に彼を殺すというものである。その陰謀に気がついたチャーリーは自ら単身英国に戻り、英米情報部の裏をかきながら彼らの企てを潰していく。そしてそれには成功したものの、前作で失脚したCIAの元長官に、英国に戻ったイーディスを殺されたことから、最後はその報復として銀行強盗犯の自宅で見つかった爆弾を使い、米国に戻る元CIA長官が乗った飛行機を爆破することになるのである。しかし、その一連の事態は英米情報部のみならず英米の首相・大統領の意向で闇に葬られる。
ということで、一介のチャーリーという情報員を葬る作戦を、英米情報部が合同で繰り広げ、それにチャーリーが対抗するという、やや荒唐無稽な話であるが、一応前作での逸話がいたるところに使われていることから、それを思い出しながら読み進めることになる。そして舞台は英国が中心であることから、チャーリーが地下鉄を使いながらロンドンの街中を、あるいは車でブライトンやケント等の郊外を動き回る姿に、更には英国の銀行や保険引受けといった世界に、懐かしいを抱くことになる。既に私のロンドン滞在時に出版・邦訳されていたこうした作品を当時何故読む機会がなかったのかを改めて悔いることになった次第である。そしてこのチャーリー・マフィン・シリーズは、その後も延々と続いていることを確認した。
第3作「呼び出された男」、第4作「罠に賭けられた男」、第5作「追いつめられた男」、第6作「亡命者はモスクワをめざす」、第7作「暗殺者を愛した女」、第8作「狙撃」、第9作「Comrade Charlie(未訳)」、第10作「報復」、第11作「流出」、第12作「待たれていた男」、第13作「城壁に手をかけた男」、第14作「片腕をなくした男」、第15作「顔をなくした男」と続く。当面は退屈しそうもない。
読了:2024年7月21日