アジア・ドイツ読書日誌と
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川崎通信
罠にかけられた男                
著者:B.フリーマントル 
 チャーリー・マフィン・シリーズ第4作で1980年の発表。前作から1年での発表である。今回も、前作同様、ロンドンの保険ブローカーで、チャーリーの恩師の息子であるルウパード・ウィーロビーからの依頼案件を巡る話で、舞台は米国である。

 冒頭、ロシア革命時の、革命派による皇帝一家拉致・虐殺の経緯が語られるが、そこで行方不明になった皇帝所有の貴重な切手コレクションが、その後発見され、今回米国で展示会に提供されることになる。ウィーロビーのロイド保険協会は、前作同様、この米国での展示会の盗難保険を引き受けることになるが、展示会での警備に不安を感じたことから、その調査・監視役をチャーリーに依頼するのである。他方、熱烈な切手収集家であり、麻薬密売組織の首領で大富豪のテリッリは、その切手の強奪を計画しており、他方、その情報をキャッチしたFBIは、それを囮にテリッリを逮捕・長期投獄する目論見である。そしてまずはチャーリーを含めたこの3者の思惑が交錯しながら話は展開するが、最後にはチャーリーの意向を受けたソ連情報機関も参入することになる。

 今回もまたチャーリー独特の自己保存の第六感がいたるところで発揮されることになる。FBIの捜査官ペンドルベリーが登場したところでこの直感で何かがおかしいことを感じたチャーリーの動きに対し、FBIサイドは、チャーリーが邪魔なので、テリッリがやったことにして抹殺することも計画する。それに気がついたチャーリーは、元々の切手がロシアの所有物だったこともあり、ソ連大使館に、情報機関幹部で、名前が知られていないカレーニン(第一作で、自分を救うために彼と組んで英米情報部トップを拘束する作戦を遂行した相手である)の名前を出し、それに驚いたソ連側は、通報者を抹殺するよう、米国に潜伏させているスパイに調査を依頼する。しかし彼の調査で、電話の主がチャーリーであることを知ったカレーニンは、逆にチャーリーがFBIから狙われていることを知り、逆に彼を保護するよう指令を出すのである。そして最後は、ペンドルベリーが仕掛けた罠に、テリッリの切手盗難部隊が襲われ、チャーリーも犠牲になることを防ぐために、潜伏スパイが雇ったキューバ傭兵隊が、FBI相手に派手な戦闘を挑むことになるのである。他方自宅を襲われたテリッリは地区の警察に保護を要請し、地区警察とFBI、そしてキューバ傭兵の3者が入り混じった闘いとなり、チャーリーはその隙を見て助かることになる。FBIのテリッリ捕獲作戦はこうして失敗に終わり、ペンドルベリーも命を落とすのである。

 この最後の3者入り混じった重火器も交えた激しい戦闘は、やや非現実的であるが、そこに至るまでのテリッリの切手盗難部隊の準備と活動、それを常時監視しチャンスを伺うFBI、そしてそれらの動きを次第に感じ取り、ウィーロビーの美人妻で、彼と肉体関係を持ったクラリッサもうまく使いながら餌を撒いていくチャーリーの様子など、相変わらず展開は非常に巧みである。前作から僅か1年で、今度は舞台を米国パームビーチに移し、それまでの3作も踏まえながらまた新たな世界を創った著者の力量には感服させられる。まだまだこのシリーズは続く。

読了:2024年8月29日