The Sum of All Fears
著者:Tom Clancy
邦訳では「恐怖の総和」と題された、著者のジャック・ライアン・シリーズの一冊である。シンガポール時代に購入し読み始めたが、途中での中断を繰り返し、結局帰国から約4年半の時間を費やしてようやく読了した。内容は面白いのだが、兎に角知らない英単語が多く、都度訳語を検索しながらの読書であったことも時間がかかった理由である。こうしてメモした英単語が、どこまで、どんどん退化している頭に残るかは大きな不安である。
1973年のゴラン高原を巡るイスラエルとシリアの間で闘われた「10月戦争」で、核弾頭を搭載したイスラエル機が墜落し、その核弾頭がアラブ支配地域に残されるが、偶々それを発見した農夫の手からアラブ・テロリストに渡り、核弾頭であることが判明する。テロリストたちは、旧東独の核研究者で、ドイツ人テロリストらの助けを借りて、それを兵器として使用できる状態にまで完成させる。他方、CIAの副長官であるジャック・ライアンは、バチカン等のコネを使い中東和平に邁進しているが、それは米国大統領であるファウラーの取り巻きで、彼の愛人でもある安全保障補佐官らの嫉妬をもたらしている。
そうした中で、核兵器を手にしたアラブ・テロリスト二人は、それを米国に持ち込み、折からフットボールの決勝戦が行われているデンバーのスタジアムで爆発させる。多くの死者が出る中、大統領府は大混乱に陥り、それがソ連の攻撃であると考え、対ソ非常事態を宣言。それを受けてベルリンや大西洋で両国間の部分戦闘が開始され、第三次世界大戦の緊張が高まることになる。しかし、爆発物の検証結果から、それが米国製の素材を使いイスラエルに供与されたものであることを確信したジャックは、何とかそれを阻止し、メキシコ経由逃亡しようとしている二人のテロリストを逮捕するのである。
と書いていてしまうと簡単だが、この1200ページに及ぶペーパーバックでは、そこに至るまでの経緯が事細かに描かれることになる。中東問題の細かい描写やそこでのアラブ・テロリストの動き。更に、バーダーマインホフと思われるドイツ・テロリストのリーダー女性の逮捕と彼女の獄中自殺。それを恨む旧東独原子科学者のアラブ・テロリストへの協力等々。他方で、中東問題への米国および国際社会の懸命な対応と、それを巡る米国大統領府内部での安全保障補佐官らとジャックらCIAとの対立。そしてテロリスト内部でも、核兵器開発後は粛清が続き、またデンバーへのそれの持ち込み過程なども、それなりに信憑性のある筆致で描かれる。そしてそこでの核爆発後は、緊急事態宣言の中での、陸海空夫々での米ソ両国軍の部分戦闘の様子。そこではただでさえ知らない英単語が多い中、更に専門的な軍事用語が飛び交うことになる。この辺りは、元々「レッド・オクトーバー」という潜水艦の亡命話でデビューしたこの作家の軍事関係での専門知識で溢れているが、正直私はそうした用語はネットで調べることなく読み飛ばしてしまったのであった。ただ米国本土で核爆発が発生した割には、その放射能による後遺症など、昨年のノーベル平和賞を受賞した被団協等が懸命に世界に発信してきた核戦争の悲劇的な結果と影響についてはあまり触れられていないのは残念である。一方でそれに関連し、あとがきで、著者は、現代の技術発展とネット等での情報により、核兵器開発が専門家でなくとも容易にできる状態になっているという警告を発しているのには留意しておこう。
それこそ、時間がかかった中で、冒頭の部分はほとんど忘れてしまうような状態であったが、丁度ガザを巡るイスラエルとハマスの戦闘が続き、この地域を巡る問題に目を向けざるを得なかったこともあり、最後は一気に読み進めることになった。現在翻訳で読み進めているB.フリーマントルの「チャーリー・マフィン」シリーズが一段落したら、この「ジャック・ライアン」シリーズの翻訳にでも手をつけてみようかと考えている。
読了:2025年2月11日