DTOPIA
著者:安堂 ホセ
第172回芥川賞受賞作2作の内の一つ。著者は、1994年生まれで、2022年に、文藝賞を受賞してデビューし、本作が3作目ということである。
フランス領ポリネシアの島で開催された一人の女性(ミスワールド)を巡る世界各国を代表する男ども数人による恋愛ゲームのテレビ番組収録の様子から始まり、それに参加している日本人(どうも黒人とのハーフの様である)の性同一障害のような過去の経緯を経てまた再びその恋愛ゲームに帰っていくという話しである。しかし、何とも分り難く、読んでいて全く展開の脈絡がつかめない作品である。
恋愛ゲームの導入部は、女と現地人召使いのルール違反の性行為や、その召使に対する暴力行為を含め、さあこれからこうした現代の若者の生態をどのように描いていくのかな、という期待感を抱かせたが、それが突然、主人公の日本人モモの「睾丸摘出手術」の過去に跳ぶと、話が混乱してくる。どうも彼は中学生時代に性同一障害を抱えており、当時の友人の助けを借りてそうした手術を親に内緒で受け、親との関係に軋轢が生じたようである。また高校生になったモモの、アート関連やトレーダー等、一方変わった混血の友人たちとの付き合い。脈絡もなくアフリカや中東に関わる女テロリストも登場し、モモがイスラエルのガザ侵攻に思いを馳せる場面なども挿入されている。そしてそうした支離滅裂な過程を経て、再びモモのポリネシアでの恋愛ゲームの場面に戻り、そこでの「睾丸摘出手術」を助けてくれた旧友キースとの再会や、ミスユニバースや現地人召使いとの交流、そしてポリネシアでのフランスによる度重なる核実験やそこで大量に生まれたフランス人と現地人の混血の子供たちの話で終わることになるのである。
賞の評者たちは、この小説について、「言葉の疾走感」、「はちゃめちゃぶっちぎり路線」、「圧倒的な熱量」等と表現をしている。確かに、言葉を衝動のまま語っているというのはその通りであるが、読んでいて全く意味が理解できない。混血少年の社会に対する違和感とそれからの逃避の過程を描いたという見方もできようが、それがポリネシアの恋愛ゲームで何か変わったの?と言いたくなる。結論は、この手の言葉遊びには私は最早ついていけない、それはある意味、私が現在の若い世代を理解できない程老化してしまったことを物語っているのだろうか?そんな寂しさを感じさせられた今年の受賞作の一つであった。
読了:2025年2月16日